日常系ミステリーの完成形/石黒正数『それでも町は廻っている(1~16)』
これはすごい。話ひとつひとつはそこまで大したこともないんだけど、積み重ねの量が膨大で、しかも時系列シャッフルをこれでもかというくらい駆使して魅力的なエピソードを作り上げている。キャラクターの可愛さも独特で、絶妙な芋臭さがたまらない。
三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』というあまりおもしろくない日常系ミステリーが流行ってから、この手の日常系ミステリーはものすごく流行ったイメージがある(これは偏見?)。ただぼくは、ちっちゃなエピソードを積み重ねる日常系ミステリーの手法が、根本的に小説と相性が悪いと思っている(米澤穂信『いまさら翼といわれても』の感想でも書いたように)。ということで、日常系ミステリーはこういうふうに月刊連載とかでやるといいんじゃないんでしょうか。『名探偵コナン』とかもありますし(これは週刊連載だけど)。
続きを読むあくまでも「ふわふわSFミステリー」/石黒正数『外天楼』
悪くないと思う。石黒正数を読むのは初めてだけど、ちょっと間抜けな感じの日常系とちょっと間抜けな感じのSFとちょっと間抜けな感じのミステリーがうまいこと混ざり合って、珍しい雰囲気を醸し出している。あえて例えるなら星新一が近いと思うんだけど、あれよりも萌えポイントが高い感じ。キャラクターもそれにちょうどぴったりな感じでゆるくていい。ついでにラストのエモさはけっこう心に響いた。
でも、あくまでも「ふわふわSFミステリー」なんだよね。他の人の感想を見る限り、このマンガは「連作短編のようで実は最終的につながる!」っていうところが褒められているように思われるけど、こーゆーのは「つながる」とは言いません。石黒もそれはわかってるはず。伏線と呼べないようなものを読者が勝手に伏線と呼んで祭り上げているだけ。ぼくはそういうのはかなり不健全だと思う。
自然主義文学とSFが交差するとき物語は始まらない/前田司郎『恋愛の解体と北区の滅亡』
これは本当にすごい!!! なんで今まで前田司郎読んでなかったんだ。
SF的なモチーフっていうのはたぶん、ある種のスタイリッシュさを前提にしている(あるいはエンタメ全般?)。でも、ぼくたちの住む現実世界はそんなにかっこいいものではない。そこが、フィクションと現実との境界線なんだと思う。前田のこの短編2作は、そんな境界線をあっさりと消してしまう。そのことによって、唯一無二といってもいい地位を確保していると思う。
続きを読むいとうくんはうそをつかなくなりました/村瀬修功「虐殺器官」
いとうくんは、とてもおもしろいはなしをしました。いとうくんがはなしはじめると、いとうくんのまわりにはおおくのひとがあつまりました。いとうくんはとてもにんきものでした。
でも、いとうくんはうそつきでした。いとうくんは、むしをいじめてころすのがだいすきなだけなのに、わるいむしをころしているのだといっていました。いとうくんは、こどものことがきらいなのに、にんげんぜんいんがすきだといっていました。いとうくんは、イギリスのゆうめいなうそつきの、ジェームズというひとのことを、うれしそうにはなしていました。もしかすると、いとうくんのはなしはぜんぶうそなのかもしれません。
でも、さいきんいとうくんはちがうひとのように、うそをつかなくなりました。たぶん、うそをつかないのはえらいことです。でも、ぼくはちょっとさびしくおもいました。なぜなら、うそをついているときのいとうくんはとてもたのしそうだったからです。
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