これがサーバルちゃんですか/ムーア、ハワード「ズートピア」
自称リベラルの隠れ差別主義者どもも普通の差別主義者といっしょにまとめてくたばっちまえという感じの、かなりしっかりとしたメッセージ性。肉食動物に対する差別まできっちりと描いているのはよいこと。それから、ストーリーの構成がかなりしっかりしており、映画というメディアで見ていて十分に楽しめるという範囲の中で最大限に伏線を張り巡らせている。
ちょっと気になったのは、もともと「ズートピア」という都市が何なのかがよくわからなかったということ。ああいう理念先行の都市が成立し、内部のダメさがうまく周りに伝わらないまま田舎の人間に理想郷として崇められる、というのは、あまり現実的ではないかなー。
おまけ。最近この映画を見た他の人の意見で、トランプが大統領になったことを引き合いに出して、トランプ(とその支持者)がこの映画をどう思うのか、みたいな感じで彼らを批判するようなものを見かけた。でも、彼らが怒り狂っている対象は、まさに副市長のヒツジがやっていたような逆差別だ。だから、彼らは都合のいいところをうまーく引用しつつ、この映画を褒めるんじゃないかな。
舞城王太郎とネットミームと女子高生成分が混ざった、魔術的なJK空間/大澤めぐみ『おにぎりスタッバー』
ひゃーーーーー。
舞城王太郎にネットミームと女子高生成分を足したような文体。さすがに舞城王太郎ほど圧倒的にうまいとは言い難いが、それでも凡百のライトノベル作家とは天と地ほどの差がある筆力。極めて無軌道な設定とストーリーの連打ははっきりいってめちゃくちゃなんだけど、それが文体のお陰でギリギリ破綻せず、魔術的なJK空間として成立している。ぼくが読んだことのある小説の中では、十文字青『萌神』が一番似ていると思った。
ストーリーはあってないようなものなので、そこら辺は不満。あと、後出し設定がぽんぽん追加されて伏線もクソもないので、厳密さを求めるような小説読み向きではないと思う。ぼくは半分くらいそういう読者なので、ちょっといまいちだと思うところも多かったけど、読み心地とノリのいい文体が大好きなもう半分のぼくは大満足なので、トータルでは十分おすすめできる。
ファンタスティックかつスプラスティックな推理バトル/森川智喜『キャットフード』
怪作ってこういう小説のことをいうんだろうな。ファンタスティックかつスプラスティックな、『不思議の国のアリス』みたいな世界観の中で、二人の探偵が全力で暴れまわる。特に敵役である三途川理の書き方がかなりイカれててすばらしい。独特なルールを使った、他の推理小説ではありそうにないストーリー展開も魅力的。『注文の多い料理店』オマージュも、ミステリーそのものにはあまり絡まないけど、雰囲気を出すのにうまく貢献している。文章が下手という意見をネットでちらほら見かけるけど、あまり気にならないような。
ただ、オチの解説がさすがにちょっと足りなすぎる気はする。麻耶雄嵩の解説もネットもなければ結構ちんぷんかんぷんになってしまうかも。あとまあ、この表紙と題名で猫好きが釣られるということもありそうだけど、そういう人たちにとってはショッキングだろう。が、ぼくには関係ありませーん。
どうでもいいんだけど、もうひとりの主人公とでもいうべき猫のプルート、そこはかとなくエロチックじゃありません? とてもいいとおもいます。
実用性の高い経済政策指南書なので、山本太郎以外も読んでくれれば……/松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』
変分原理を省いた「あなたの人生の物語」に「未来」なんかないんだよ/ヴィルヌーヴ「メッセージ」
結構大胆な原作改変をしているんだけども、その多くは原作「あなたの人生の物語」とは大きく違うとはいえ、決して悪くはない……変分原理についての話を除いては。これを省いちゃったせいで、ちょっとまぬけな映画になってしまっていると思う。
以下ネタバレ多数につき注意。
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たのしいたのしいお笑いエコノミクス/バウマン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』
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