どうしてぼくたちがバカなのかはわかるけど/網谷祐一『理性の起源』

 

理性の起源: 賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ (河出ブックス 101)

理性の起源: 賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ (河出ブックス 101)

 

 副題詐欺。ぼくたちが一見すると「愚かすぎる」のはなぜなのか? という疑問については、かなり詳しく、説得的に説明してくれる。しかし、なぜぼくたちはこんなに「賢すぎる」のか? という、もう一つの疑問にはあまりしっかり答えてくれない。なので、いい本なんだけど尻すぼみになってしまっていると思う。

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哲学の最前線の手際の良い紹介/岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』

 

いま世界の哲学者が考えていること

いま世界の哲学者が考えていること

 

 日本ではまだちゃんと紹介されていないポストモダン以降の哲学を簡潔に紹介した本。この手の本はまだあまりなく、一応戸田山和久『哲学入門』もあるけど、あれは思いっきり自然主義に偏った本なので、ぼくは好きだけど中立性は薄い。この本は、かなり中立的な立場に立っているように思えるので、そのへんは心配しなくても大丈夫。

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凡作を通じて過去の読書体験を葬るということ/江波光則『鳥葬』

 

鳥葬 -まだ人間じゃない- (ガガガ文庫)

鳥葬 -まだ人間じゃない- (ガガガ文庫)

 

 個人的に、とてもつらい読書体験だった。

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「萌えられる異形」を描けるのはえらい/弐瓶勉『シドニアの騎士(1~15)』

 

 全体的にはいまいち。戦闘シーンがかなりわかりづらく、長々としたセリフをいちいち追いかけながら何が起こっているのかを文字で(!)把握しなければいけないので、かなーりテンポが悪い(ぼくは面倒になったので途中から流し読みした)。設定やストーリーも、驚きでひっくり返ってしまうようなレベルではない。

一応ちゃんと言っておくと、設定もストーリーも、「そこそこ」よくできたものではある。でも「そこそこ」でしかない。だから小説でもマンガでも映画でもゲームでも、これより面白い話自体はいくらでもあると思う。

ただし、真ヒロイン白羽衣つむぎのキャラクター造形だけはずば抜けてすばらしい。どう見ても男性器にしか見えないグロい造形のくせにいちいち可愛らしく感じてしまうというだけでもすごいと思う。この「萌えられる異形」を描くことができることを活かして、いっそフェチ全開で谷風長道ハーレムの半分くらいを気持ち悪い異形キャラにしてくれたら、もうちょっと見どころのあるマンガになったとは思うんだけど……。

 

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面白かった本(2017/5)

5月に読んで面白かった本のまとめ。

 

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これがサーバルちゃんですか/ムーア、ハワード「ズートピア」

 

ズートピア (字幕版)

ズートピア (字幕版)

 

 自称リベラルの隠れ差別主義者どもも普通の差別主義者といっしょにまとめてくたばっちまえという感じの、かなりしっかりとしたメッセージ性。肉食動物に対する差別まできっちりと描いているのはよいこと。それから、ストーリーの構成がかなりしっかりしており、映画というメディアで見ていて十分に楽しめるという範囲の中で最大限に伏線を張り巡らせている。

ちょっと気になったのは、もともと「ズートピア」という都市が何なのかがよくわからなかったということ。ああいう理念先行の都市が成立し、内部のダメさがうまく周りに伝わらないまま田舎の人間に理想郷として崇められる、というのは、あまり現実的ではないかなー。

 

 

おまけ。最近この映画を見た他の人の意見で、トランプが大統領になったことを引き合いに出して、トランプ(とその支持者)がこの映画をどう思うのか、みたいな感じで彼らを批判するようなものを見かけた。でも、彼らが怒り狂っている対象は、まさに副市長のヒツジがやっていたような逆差別だ。だから、彼らは都合のいいところをうまーく引用しつつ、この映画を褒めるんじゃないかな。

舞城王太郎とネットミームと女子高生成分が混ざった、魔術的なJK空間/大澤めぐみ『おにぎりスタッバー』

 

おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

 

 ひゃーーーーー。

舞城王太郎にネットミームと女子高生成分を足したような文体。さすがに舞城王太郎ほど圧倒的にうまいとは言い難いが、それでも凡百のライトノベル作家とは天と地ほどの差がある筆力。極めて無軌道な設定とストーリーの連打ははっきりいってめちゃくちゃなんだけど、それが文体のお陰でギリギリ破綻せず、魔術的なJK空間として成立している。ぼくが読んだことのある小説の中では、十文字青『萌神』が一番似ていると思った。

トーリーはあってないようなものなので、そこら辺は不満。あと、後出し設定がぽんぽん追加されて伏線もクソもないので、厳密さを求めるような小説読み向きではないと思う。ぼくは半分くらいそういう読者なので、ちょっといまいちだと思うところも多かったけど、読み心地とノリのいい文体が大好きなもう半分のぼくは大満足なので、トータルでは十分おすすめできる。