演出の大切さをあらためて思い知らせてくれるドラマ/黒沢清「贖罪」

 たぶん、話の都合の良さでいえば「告白」といい勝負だと思う。そんな都合よく15年後にぴったりと事件なんて起こんねーよとかなんとか、挙げようと思えばキリはない。

でも、そんなのどーでもよくね? と思わせてくれるほどに演出が圧倒的に素晴らしい。話が微妙なのに演出が輪をかけてダメだった「告白」とは対照的。このレベルの話で300分というのは若干長いような気がするんだけど、そんな長さを全然感じさせないほどにひとつひとつの映像描写が魅力的なんだと思う。

またそれを支える俳優陣もえらい。とくにびっくりしたのは小池栄子で、最初は小池栄子が新任教師とか無理ありすぎだろと思っていたんだけど、見れば見るほど小池栄子しかありえないと思わせてくれる。

続きを読む

世界観を再利用するとSF書くの楽なのかねー?/長谷敏司『My Humanity』

My Humanity

My Humanity

 

 現在放送中のアニメ「BEATLESS」の原作者・長谷敏司による短編集。どの作品も一定水準以上の短編にはなっており、そのうち「all, toi, toi」と「父たちの時間」はかなりの出来。SFの短編集って、露骨にクオリティの低いゆるふわ幻想文学短編が1〜2本くらい入っていることが多いんだけど、本書は気合いの入った短編ばかりなのでたいへん満足度は高い。

気になったのは世界観の再利用。本書に収録されている短編のうち、2本は『あなたのための物語』(ぼくは既読)の世界観を、1本は『BEATLESS』(途中で挫折。今度アニメ見ます)の世界観を再利用して作られている。そして、そういう世界観の再利用が小説的な効果を産むかというと、微妙。ただまあ、世界観を再利用する最大のメリットとして、作者がたいへん楽をできるという点はあるので、しょうがないといえばしょうがない。

続きを読む

薄味ながら、白と黒のコントラストは圧巻/阿部共実『月曜日の友達(1~2)』

 正直ストーリーは薄味。いやもちろんだからといってまったくダメなわけではないんだけど、『ちーちゃんはちょっと足りない』を読んでしまったあとだと……。まあ『ちーちゃん』ほどの圧倒的な完成度と骨太さを求めるのも酷だとは思うんだけど。

すごくドキっとしたのは、2巻の前半の方の、水谷と月野がケンカをして別れた直後に、そのケンカの原因だった火木と月野の間で超能力が発生したシーン。ここを読んでぼくは、てっきりそのまま寝取られ展開に行くのかと思った(もしそうだったらぼくは『月曜日』を『ちーちゃん』並に好きになってたと思う)。でも、あっさり仲直りしちまいやがって(いや実際はそんなにあっさりではないんだけど)。ものすごく期待した分、期待を裏切られた感も大きかったのは残念。

ただ、その分(?)絵の方はかなり印象的。特に圧巻だったのが白と黒の使い方で、白あるいは黒の背景だけで他に何も絵がないコマや、白と黒のベタ塗りだけで構成されたコマなど、とにかく印象に残るシーンが多い。マンガというモノクロの媒体の中で白と黒のコントラストを強調できる、というのは純粋にすごいと思う。

続きを読む

不条理だけが不条理小説じゃない/石川宗生『半分世界』

半分世界 (創元日本SF叢書)

半分世界 (創元日本SF叢書)

 

 不条理小説ではあるんだけど、不条理そのものだけではなく各所に散りばめられたユーモアがかなりおもしろい。普通この手の小説だと「雰囲気がいい」みたいな褒めているんだか皮肉なんだかよくわからない褒め言葉が出てきがちなんだけど、本書は自信を持って「雰囲気以外もいい」といえる。

その他の特徴としては、あまり小説的でない文体(ノンフィクション調など)が積極的に採用されている。必然性はあまり見出だせなかったが、読みやすいのは確か。

 

続きを読む