ミステリーの皮を被ったSF、あるいはSF/法月綸太郎『ノックス・マシン』

ノックス・マシン (角川文庫)

ノックス・マシン (角川文庫)

 

 ミステリー作家の法月綸太郎が書いた短編集。しかし、純粋にミステリーと言えるのは1作のみで、残りの3作はミステリーの皮を被ったSFあるいは単純なSF。短編集としての統一感のなさは若干あるが、それぞれの短編はかなり面白い。ミステリーに多少詳しいほうがいいとは思うけど、まあ特に知らなくてもググればどうにかなるかも。

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単行本で一気に読むべき/木下古栗『人間界の諸相』

人間界の諸相 (単行本)

人間界の諸相 (単行本)

 

 『生成不純文学』が刊行された時期に、この小説は『小説すばる』で連載されていて、その一部がネットで無料公開されていた。当時それをぼくも読んだが、あまりおもしろいとは思わなかった。

けれど、あらためて1冊の本で読んでみて、かなり印象が変わった。これめちゃくちゃおもしれーじゃん。

奇抜な設定やパワーワードで目を引きながらも、圧倒的に適切な言葉の選択と絶妙な読みやすさによって読者をグイグイ引っ張ってくる。さすがに瞬間最大風速では勝てないが、平均でなら「Tシャツ」に勝るとも劣らない傑作。読んでる間ずっと笑いっぱなしでした。

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テンポが悪くたって戦闘さえ面白ければ/「バテン・カイトス」

バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海

バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海

 

 すげーーおもしろい戦闘システムだねこれ、基本的にはトランプのポーカーとスピードを組み合わせたようなシステムで、RPGなのにまったく油断することができず、最後まで飽きずにザコ戦からボス戦まで楽しめる。

またストーリーもけっこう攻めてて、普通にゲームを進めていたら驚きの展開に遭遇することは確実。まあ王道から若干外したことの代償(?)で主人公カラスが妙に主人公っぽくないみたいな欠点もあるが、平々凡々なストーリーを見せられるよりはずっとマシ。

あと個人的にすごい好印象だったのが、ダンジョンの簡潔さ。このゲームはザコ戦でもそこそこ戦闘時間がかかるため、時間のバランスを調整するためにダンジョンを簡潔にしたんだと思うんだけど、その調整がうまい。(一部のダンジョンを除けば)大きすぎないダンジョンで、でもある程度の謎解きを入れたりして簡潔すぎないようにしていて、非常に親しみやすいと思った。

 

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ゼロ年代キャラクター小説の絞り汁/名倉編『異セカイ系』

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

 まあゼロ年代キャラクター小説の絞り汁みたいな小説で、ちょっとその味の濃さにびっくりしてしまう感じはあり、「ゼロ年代から出てくるなよ」と言いたくもなってはしまうんですが、ミステリーとしてもSFとしてもキャラクター小説としてもよくできてるんだからしょうがない。問題意識がかなり極端なので受け入れがたい読者はたくさんいるとは思うんですが、それでもゼロ年代のフィクションをそこそこ楽しんだオタクとしては、ああ心地いいなと思ってしまいます。

ただ唯一ケチつけたいのは関西弁の口語体。方言、改行のない「」の畳み掛け、フォントいじり、小説のテーマ、そして直接の言及があるので、たぶん舞城王太郎を意識しているんだと思うんですが、まあかなり読みにくい。1ページ目からそのノリなので、慣れるまでにだいぶ時間がかかった。

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一発屋芸人だって十人十色なんです/山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』

一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

 

 「一発屋芸人」と呼ばれているお笑い芸人の現在・過去・未来を、これまた一発屋芸人と呼ばれることの多い髭男爵山田ルイ53世が取材したドキュメンタリー本。特徴的なのは、山田によるそれぞれの芸人の的確な分析だろう。プロの目線から、一発屋と呼ばれる人たちにも「力のある一発屋」「力のない一発屋」があることが暴かれるのは読んでいて非常に痛快。また、(雑誌連載の書籍化だからということもあるが)1人の芸人に対して20ページくらいの文章量なので、あまり疲れずサクサク読めるという良さもある。

欠点としては、やや文体がくどいことか。文章自体はわりと面白いのでそれでもどうにか読めちゃうんだけど。あとはまあ、ある程度お笑い芸人に興味がないとあまり楽しめないとは思う。