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思想や欠点が執筆目的を邪魔しない不思議な良書/斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』

 

学校が教えないほんとうの政治の話 (ちくまプリマー新書)
 

 最近突然経済左派に転向したことで、参院選あたりから(だっけ?)ちょっとした話題になっていた斎藤美奈子女史の本。中高生ぐらいに向けて「ひいきの党派」を作ることを勧め、それを実践しちゃった本。経済にもちゃんと触れているのはよいこと。ほんとに転向してたんですね。

雑な議論とか、好き嫌いがはっきりわかれそうな文体とか、斎藤特有の難点も結構ある。でも、そういった欠点が、むしろこの本の執筆目的に貢献しているようにも思えて、不思議なことに全体としては(意図してるかは知らないけど)いい本になっていると思う。

 

この本の価値の7割ぐらいは、プロローグである「『選挙に行け』っていわないで!」という章にあると思う。ひいきの党派を作ろう、だってさ。野球のひいきのチームとかAKBの推しメンとかみたいに、ひいきの党派を作ってそれを応援しよう! という主張。

思わず面食らう主張ではある。AKBや野球と一緒にするな! と怒り出す人もいるかもしれない。でも……決して悪い考え方ではないと思う。ネットとかで一生懸命政治主張してる左翼も右翼も、割りと楽しそうだよね。そういう楽しみに足を踏み入れるいいきっかけになると思う。投票率も上がるし。

 

しかしまあ、斎藤の常として、雑な議論もかなり多い。 たとえば、普天間基地移設問題みたいな、反対運動の起こった国の決定をいくつか挙げて、国家主義個人主義の対立構造に落とすところとか。もちろん反対運動は個人主義のあらわれであることは言うまでもないけど、国の決定だって別の個人主義のあらわれでもあるでしょう。まあ敷居を低くするって意味で単純な図式にしてるんだと思うけど、気にはなる。

あと、民主党政権のの政治的な失敗を「実際、民主党政権の閣僚たちは、官庁にも財界にも、そうとう意地悪をされたと思いますね」(『学校が教えないほんとうの政治の話』kindle版、2151)と言っちゃうところとか。民主党政権の政治目標って「官僚の分離」とかだったんじゃなかったっけ?

完全に枝葉だけど、「『表現の自由』っていうのは、過激な性表現のためにあるのではなく、反体制運動のための条文といってもいいのです」(kindle版、346)はひどい。エロ漫画とか嫌いでいいしフェミニズム的な検討もいいと思うけど、普通にどっちのためでもあるでしょう。ついでにエロ漫画も反体制の一面を持ってると言えるとも思う。

 

が……不思議なことに、そういう個別の欠点はこの本の執筆目的を邪魔しない。だって、この本での斎藤の根本的な主張は「ひいきの党派を作ろう!」なのだから。雑な議論とか文体とか、あとわかりやすいほどの左翼的思想とかは、相対化のきっかけにもなると思う。

さらにいえば、そもそもこの本で繰り広げられているのも、「ひいきの党派を作ろう!」的な活動の実践でもある。この本で出てくるレベルの話ができれば、ひいき党派を作って投票に行って好きな思想を応援するぐらいのことはできるのだ。この本の欠点は、政治への敷居を低くするという思わぬ効果を生んでいる。

この本を読んで「クソ左翼さっさと死ね!!!」的なことを思う人もいるだろう。でも、斎藤の政治思想をいくら否定しても、斎藤のこの本での基本的な主張は揺るがない。というか、そういう批判もひいき党派活動の一貫だろう。斎藤としては願ったり叶ったりのはず。