ゲーム理論の本じゃない!!!/梶井厚志『戦略的思考の技術』
副題が「ゲーム理論を実践する」なんだけど、ゲーム理論で数式をごちゃごちゃ~みたいなのは全然ない。ぼくはそういう本だと思って買ったので、予想と違ってびっくりはした。
ただ、その点を除けば非常にまっとうな経済学の入門書(テクニカルタームだと「情報経済学」って言うんですか? Amazonのレビューにそうあった)なので、悪い本ではない。一読の価値はまあまああると思う。
まあ、ゲーム理論の入門書・実践書みたいな宣伝は、だいぶ誇張ですな。あとがきで梶井は「囚人のジレンマがゲーム理論で占める位置が重要なものであるのは疑いないが、どの本を読んでもそれが現れるのではまったく興ざめで、しかも戦略的環境すなわち囚人のジレンマであるかのごとく取り扱う書籍まで散見されると、意地でも使いたくなかった」(『戦略的思考の技術』中公新書、p.273)とか言っているけど、意地云々で気まぐれに本の内容を決めてしまうという態度自体は、ちょっと眉をひそめたくもなる。
でも、その不真面目な態度から悪い本が現れる、ということはない。個人的にぼくは囚人のジレンマとかって、ほとんどドグマ化されている概念だと思っている。ぼくは、その思いが単なる思い込みにすぎないかもしれないとも思ったので、ゲーム理論の入門書も読もうかなと思っていたんだけど、この本の場合は「囚人のジレンマってドグマでしょ!!!」みたいな感じであっさり切り捨てちゃう。
稲葉振一郎『経済学という教養』を読んだときにも思ったんだけど、こういう風にドグマをちゃんと切り捨てられるのは大事。需要供給曲線とか囚人のジレンマとか、たいそう重要なもののように扱われるけど、そんなに重要ですかぁ?(これはちゃんと経済の勉強をしてないぼくの思い込みという面もある。でも、経済学の素養はないけどバカではない人は多かれ少なかれ似たようなこと思ってるんじゃないかな? とも思ってしまう)
で、そういうのを省いて残っちゃったのは、非常にまっとうな経済学の入門書。インセンティブやらコミットメントやら、わりと重要な概念ではあると思うけど経済学の入門書ではあんまり見ないワードをしっかり解説しているので、よくある経済入門書ともしっかり差別化できていると思う。あと、梶井はあとがきで「最後に、原稿を読むだけではなく、私の知らなかった数々の一般常識を執筆中に教えてくれた妻の由紀子に深く感謝したい」(p.274)ともあるけど、そのせいかこの本で挙げられる具体例には、子育てやらダイエットやらスーパーの割引やら、妙に所帯じみたものも多く、ちょっとかわいい。
『ヤバい経済学』あたりが似てるかな(日本での出版はこの本のほうが先だけど)。あっちはまあまあ高くて厚い本なので、さらっと読みたいかたはこちらをどうぞ。安くて薄いからって内容が劣っているわけでもないし(『ヤバい経済学』は、相当面白い本ではあるんだけど、内容に体系的なまとまりがないのが重大な欠点だと思っている。この本の場合はそういうまとまりもある)。
というわけで予想とは違ったけど得るものは多い本だと思う。結局ゲーム理論への不信感が払拭されないので、いい入門書あったら教えてください。
- 作者: スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー,望月衛
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2007/04/27
- メディア: 単行本
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