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物理の解説に科学史に原発批判までついてくるお買い得セット/山本義隆『原子・原子核・原子力』

書評 自然科学

 

原子・原子核・原子力――わたしが講義で伝えたかったこと

原子・原子核・原子力――わたしが講義で伝えたかったこと

 

 原発批判をしようとしたらどうしても科学史に触れざるを得なくなり、遡っていくうちに古典物理学やら古典化学やらの解説までしちゃった本。科学史家として一流である山本の本で、しかもかなり易しい言葉で説明が進められるのでするする読める。

要はバリューセット。2000円ちょいでこれだけ情報が詰まっているのならいい本ですよ。

 

全く期待してなかったんだけど、古典物理から量子論の一歩手前あたりまでの橋渡しをかなり丁寧にしていてびっくりした。その説明もなかなかわかりやすい。ぶっちゃけ急いで読んでたので細かい数式の議論は読み飛ばしたけど、ちゃんと読めば人文系の人でも理解できるぐらいの易しさなのでありがたい。

 

結構政治的な偏向があるみたいな意見も見かけたけど、ネトウヨのみなさんがお嫌いな感じの政治的偏向ではないんじゃないかな。どさくさにまぎれて中韓disってたりするし。まあ政治的な偏向があるとしても、山本義隆に政治的な中立性を求めるほうが……ねえ。

むしろ気持ち悪いのは、科学者に無謬性を求めるくだりかなあ。原発開発とかそのもととなったマンハッタン計画を批判してそれに加担した科学者を批判するくらいまではまあわかるけど、戦争協力自体まで批判しだすのはちょっとなあ。もちろん当時の帝国主義思想とか批判するのはいいんだけど、そういう思想がパラダイムとして機能していたという前提とかを考えずに、そのような中でも科学者は無謬であらねばならない、みたいな考えはちょっと。

あと、原発批判の部分は、他の原発批判論者と言っていることがあんまり変わらないのは残念。他の原発批判論者とくらべたときに、山本における原発批判の比較優位は圧倒的に低いようで(褒めてますよ)、だったら科学史とかに徹しても良かったんじゃないかな? とは思う。

 

まあ、欠点もちょこちょこあるけど、トータルとしてはいい本なのでは? とりあえずぼくは、この手の本になぜかよくある、経済に対する圧倒的な無理解がなかったことだけでも安心しました。