幻想的な不条理ホラーの皮を被った傑作ガール・ミーツ・ガール/矢部嵩『魔女の子供はやってこない』

 

 大傑作です。幻想的な不条理ホラーの皮を被りつつ、中身はめちゃめちゃよく練られた傑作ガール・ミーツ・ガール。

 

 この小説は角川ホラー文庫から出ているので、一応この小説を便宜的に分類すれば、ホラーということになる。そしてその便宜的な分類は、必ずしも的外れではない。この小説は連作短編形式になっているのだけど、そのうち4話と5話は、いかにもホラー短編でありがちな、気の利いたオチがついている。

……が、気の利いたホラーチックなオチがついているのは、4話と5話だけだ。もちろん他の短編でも、やたらグロい人体破壊とかがいっぱい出てくるのだけど、それは単なる「グロ」であって「ホラー」ではない。だから、この小説を単純に「ホラー小説」というのは難しい。

 

じゃあこの小説はどんな小説なのか? よくわからん。小学生のガール・ミーツ・ガールでもあり、主人公夏子の成長物語でもあり、青春物語でもあり、不条理文学でもあり、そしてもちろんホラーでもある。一言では言い表せない。

それだけ数多くの文脈を一本の小説にまとめるだけでは飽き足らず、その中に矢部はこれでもかというくらい暗喩やら伏線やらをぶち込む(このことについては、書こうとするととんでもない量になってしまうので、Monomane氏の解説を読んでみるといろいろ見えてくるものがあると思う)。その手腕は見事。

さらに、描写もめちゃくちゃ独特。たとえば、「え別に」みたいに、登場人物の言葉遣いが極端にリアルで、一般的な小説のお作法を無視して、しかし妙にそういう言い方しそうな言い方で登場人物は喋る。あるいは、5話である主婦の代わりをこなすことになった夏子に押し寄せる、キャパオーバー気味な家事の数々(ホラー小説で家事が恐怖の対象になるとは思わなかった)。ぶっちゃけ読みやすいとはいえないけど、読み応えのある文章だと思う。

 

なんかジャンル分けしづらいわけわかんない小説ではあるんだけど、とてもおすすめできる。ぜひ読みましょう。