1月に読んで面白かった本のまとめ。
中西準子『環境リスク学』(日本評論社、2004年)
いろいろなもののリスクを測る本。あるもののリスクを正確に測るためにはここまで丹念な努力が必要である、ということがよくわかる。自分の体験に深く基づいた本であり、その上5部のエッセイ(?)がやや散漫なため、体系性は欠けているのが残念。
アマルティア・セン『福祉の経済学』(岩波書店、1988年)
さすがに古い本だし、ミクロ経済学のテキストのような議論も多いので門外漢にはちょっと厳しいが、それでも大事なことはいろいろと書いてある。とくに「幸福度ではなく客観的な状況を」という主張は、「残業時間が長くなるにつれ最初は幸福度は減っていくが、途中で幸福度が増えはじめる」という話を聞いたこともあり、大変納得できる。そして、たとえば松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』なんかでも、児童ポルノの被害者数やらタンパク質の摂取量やらを参照していたわけだし、センの影響をあらためて感じさせる。
レーモン・クノー『地下鉄のザジ』(中公文庫、1974年)
スプラスティックでエネルギッシュな小説。 少女ザジの持つパワーに圧倒されてしまった。
ティム・スペクター『ダイエットの科学』(白揚社、2017年)
科学的な調査によって食事と健康の関係を明らかにした本なんだが……。詳細はここ。
藤野可織『ドレス』(河出書房新社、2017年)
白かと思ったら真っ黒な粒ぞろいの短編集。ここ。
笹山尚人『労働法はぼくらの味方!』(岩波ジュニア新書、2009年)
労働法についての平易な解説。まあさすがに、断片的にはなんとなく知っているような内容も多いが、そういう知識をちゃんとまとめているというだけでも価値がある。ついでに物語形式なので読みやすいというのもある。
アマルティア・セン『経済学と倫理学』(ちくま学芸文庫、2016年)
うーん。確かに、本書で述べられているような近代経済学批判を、1987年の時点でしていたというのは重要だ。が、その後の経済学が辿った道を見てみると、たとえば行動経済学のように、どんどん人間に寄り添ったアプローチは力を増している。そして、センが本書の中で強調しているような倫理や道徳といったものも、自然主義的なアプローチによる解明が始められている。そのようなことを考慮に入れると、本書のような経済学批判を2016年以降に読む意義は薄いのではないかと言わざるをえない。
濱口桂一郎『日本の雇用と中高年』(ちくま新書、2014年)
中高年の雇用問題という切り口から日本の雇用制度の特殊性を描き出す本。
この本では述べられていないが、個人的には障害者の雇用について関心があるため、「年功に従って管理職に進む」という日本的な雇用制度が、「特定の業務なら出来る障害者」の雇用を邪魔しているのではないか、と思った。
斉藤道子『首都圏 大学図書館ガイド』(メイツ出版、2015年)
濱口桂一郎『働く女子の運命』(文春新書、2015年)
前述の『日本の雇用と中高年』は中高年の雇用問題から日本の雇用の特徴を描き出す、という印象が強かったが、こちらはむしろ日本の雇用の特徴から、日本における女性の雇用問題の特色を描き出すという形になっている。ここ。
ウラジーミル・ソローキン『親衛隊士の日』(河出書房新社、2013年)
ソローキンの小説は『愛』と『氷』しか読んだことがなかったので、3冊目はこれを。読みやすく、また随所にソローキン流の圧倒的な暴力が見えるのはよかったが、ややとりとめのない話だという感は否めない。
桜井静香『ジムに通う前に読む本』(講談社ブルーバックス、2010年)
ジムに通う前に読む本―スポーツ科学からみたトレーニング (ブルーバックス)
- 作者: 桜井静香
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/08/20
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トレーニングに関する豆知識がコンパクトにまとまっている。タイトルとは裏腹に、別にジムに行かない人でも役に立つはず。
山崎元『シンプルにわかる確定拠出年金』(角川新書、2017年)
内容としてはまあいつもの山崎元なのだが、確定拠出年金についてシンプルにまとまっている。あとこの本では、企業型の確定拠出年金についても紙幅を割いていてありがたい。
濱口桂一郎『若者と労働』(中公新書ラクレ、2013年)
若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす (中公新書ラクレ)
- 作者: 濱口桂一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/08/10
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上に挙げた2冊は中高年の雇用/女性の雇用という観点から日本型の労働社会をボロクソに批判した本だが、こちらはちょっと印象が違う。この本はもちろん日本型労働社会を批判しつつも、そういう労働社会がいかに会社や教育と「うまく」支え合って成立しているかを明らかにしているのが面白い。特に、職業教育が必要とされない日本型労働社会においては、非実学系の大学教員がポストを得やすいという指摘は非常に興味深い(ここらへん欧米とかだとどうなってるんだろう)。
小澤祥司『うつも肥満も腸内細菌に訊け!』(岩波科学ライブラリー、2017年)
うつやら自閉症やら肥満やら、腸内細菌についてのさまざまな知見がまとめられている。ただ、「訊け」という割には、ぼくたちが具体的にどうすればいいのかについてまったく触れていないのはかなり不満(具体的な指針が欲しい人は上記スペクター『ダイエットの科学』を読みましょう)。
樺山三英『ジャン=ジャックの自意識の場合』(徳間書店、2007年)
究極の雰囲気小説。いや、しっかり読み込めばわかりやすい構造がありそうなんだけど、それを意図的に拒むような書きぶりなので、しっかり読み込むのは断念。それでも雰囲気作りが圧倒的に上手で、それを楽しむだけでも十分満足できる。
スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー『超ヤバい経済学』(東洋経済新報社、2010年)
前著と同じく大変刺激的。そして感動的でもある。ここ。