カタツムリに渦巻く進化論の歴史/千葉聡『歌うカタツムリ』

歌うカタツムリ――進化とらせんの物語 (岩波科学ライブラリー)

歌うカタツムリ――進化とらせんの物語 (岩波科学ライブラリー)

 

 「カタツムリ研究の歴史」という、どうみてもニッチにしか見えないようなテーマを扱った本。もちろんぼくも、特別カタツムリに関心があるわけではない。

にもかかわらず、本書は驚きに満ち溢れた本である。というのも、カタツムリ研究の歴史を扱うことは、進化論の歴史を裏面からなぞるようなことだからである。

 

 とにかくぼくが本書を読んで驚いたのは、カタツムリ研究といういかにもニッチそうな分野に、進化論を少し勉強した人なら誰でも知っているような人が意外に関わっている、ということ。具体的には、ダーウィン、ロナルド・フィッシャー、木村資生、スティーヴン・ジェイ・グールドなど。そして彼らの進化論の立場に、カタツムリ研究も大きく関わっているということがわかる。また、適応主義者と反適応主義者の対立も、大変歴史的に根が深いものであるということもよくわかった。

そのような、進化論的な立場がさまざまな人たちの研究をバランスよくまとめたのも、本書のすばらしいところの一つ。フィッシャーのようなウルトラダーヴィニストからグールドのような反適応主義者までを、総合説の立場からかなりフェアにまとめているということに、千葉の姿勢と技量が現れているといっていい。

また、日本の研究も多数取り上げられているのもポイント。これは別に著者が日本大好きナショナリストだからというわけではなく、カタツムリ研究の初期の立役者であったギャレックという生物学者・宣教師が、日本に移住したからであると思われる。そのような日本の研究が日本語のみで書かれたためなかなか海外で参照されなかった、ということも含めて、「日本人として」とても興味深い。

 

一つ気になるのは、どうしてこれらの偉大な生物学者たちが、カタツムリに魅せられたのか、ということ。単なる偶然なのか、それとも進化論を研究する上でカタツムリには何か都合の良い部分があったのか(適応主義的!)、個人的にはとても気になる。

 

 

総じて、進化論に興味がある人にとっては、トリビアに満ちたとてもおもしろい本となっているはず。さすがにオーソドックスな進化論の理論を知っていないと理解しづらいところはあるが(ぼくも教科書的に進化論勉強してないので、遺伝的浮動よくわからーん)、それでも一応読めるぐらいには平易に書かれているので、とてもおすすめできる。