私小説とエッセイのあいだをいったりきたりする奇妙な小説(?)/円城塔『プロローグ』

プロローグ (文春文庫)

プロローグ (文春文庫)

 

 話の筋を理解するのは大変むずかしいと思う。そもそも説明少なめのメタフィクションなので、一読でちゃんと話を理解させる気もないだろうし。たぶん実ははっきりとした筋もあるとは思うんだけど、膨大なリソースを費やさないときっちり把握できないような気がしたので断念。

それでもこの小説が面白いのは、円城塔の趣味が全開だからだ。統計やらプログラミングを小説に応用するのは、最近話題となったAIハリー・ポッターなんかをみても、かなり有効な手段であるというのは間違いないはず。その最前線の作業を、小説というテキストのなかで生で見ることができるというのはとても楽しい。

また、出版を巡る大量の愚痴も必見。ぼくもちょっとだけ出版にかかわる仕事をしていたからわかるのだけど、びっくりするような前時代的行為が行われていること、あるんだよねー。円城は、それが単に前時代的で無駄であるというだけでなく、実際に本を作る作業において支障をきたすことがある、ということを指摘している。たかが私小説(エッセイ?)と侮るなかれ。本書には、出版業界が解決すべき問題が山盛りなのだ。

ということで、普通の小説として楽しむのはけっこう難しいような気もするが、出版や本とコンピューターの関係についてのエッセイとして読むととても楽しめるのではないか。おすすめです。

 

おまけ。赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の書評で、ぼくは「twitterでも彼がゲームの話をしているのはほとんど見たことがないし、彼の小説でも、ネットミームのパロディを除けばゲームの話なんてしていた記憶がない」と書いた。でも、『プロローグ』では、よくあるJRPGの話から「アクアノートの休日」まで、わりとゲームの話をいろいろしている。うーこれは恥ずかしい。

ということで、円城が『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』を読んで伊藤計劃を幻視した説も、だいぶ信憑性は揺らいでしまったかも……。

 

ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム

ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム

 
アクアノートの休日

アクアノートの休日