単行本で一気に読むべき/木下古栗『人間界の諸相』

人間界の諸相 (単行本)

人間界の諸相 (単行本)

 

 『生成不純文学』が刊行された時期に、この小説は『小説すばる』で連載されていて、その一部がネットで無料公開されていた。当時それをぼくも読んだが、あまりおもしろいとは思わなかった。

けれど、あらためて1冊の本で読んでみて、かなり印象が変わった。これめちゃくちゃおもしれーじゃん。

奇抜な設定やパワーワードで目を引きながらも、圧倒的に適切な言葉の選択と絶妙な読みやすさによって読者をグイグイ引っ張ってくる。さすがに瞬間最大風速では勝てないが、平均でなら「Tシャツ」に勝るとも劣らない傑作。読んでる間ずっと笑いっぱなしでした。

 

そして、この小説の一部を連載中に読んで、あまりおもしろいと思わなかった理由もなんとなくわかってきた。バラバラに読むと印象が薄すぎるのだ。
前述したとおり、この小説の面白さはディテールの良さである。でも、バラバラに読むとかなり短く(単行本で1桁ページ程度)、サラっと読めてしまうので、ディテールの良さよりも設定の奇抜さや言葉のインパクトに目を引っ張られてしまう。そして設定やインパクトのある言葉は、それ自体がそこまでおもしろいわけではない。
でも、それらがこうやって1冊の本になったとき、バラバラに読んていたときには目に入らなかった本当の良さが見えてくる。単体ではとりたてて特別に見えないボルボックスが、群体を形成することにより全く別の生き物みたいになってしまうように。なので、本書を読むときはチマチマ読まず、長編小説を読むつもりで一気に読んだほうがいいと思う(200ページないし)。
というわけで、本書は木下古栗未読の人にも勧められる(だいぶ人を選ぶが)し、もちろん古栗ファンも読むべき。だけどなにより、雑誌やネットでこの小説(の一部)を読んでピンとこなかった人にももう一度読んでほしい。
 
 
おまけ。すっかり報告し忘れてたんだけど、集英社さまから木下古栗Tシャツをいただきました(2年前)。タンスの奥に大切にしまってします。ありがとうございました。