ミステリーの皮を被ったSF、あるいはSF/法月綸太郎『ノックス・マシン』

ノックス・マシン (角川文庫)

ノックス・マシン (角川文庫)

 

 ミステリー作家の法月綸太郎が書いた短編集。しかし、純粋にミステリーと言えるのは1作のみで、残りの3作はミステリーの皮を被ったSFあるいは単純なSF。短編集としての統一感のなさは若干あるが、それぞれの短編はかなり面白い。ミステリーに多少詳しいほうがいいとは思うけど、まあ特に知らなくてもググればどうにかなるかも。

 

以下個別の感想。

表題作「ノックス・マシン」は大傑作。『カルチャロミクス』(ぼくは未読ですが……)みたいな文化統計学・経済学を下敷きにしている。ノックスの十戒を条件式っぽく落とし込めるだろう、っていうアイデアがまずおもしろい。十戒はポリコレ的にあかんから研究ダメみたいなのも妙に生々しくていい。さすがにSF設定の部分は若干強引だが、タイムトラベルものとしてもほぼ完璧といっていいと思う。

「引き立て役倶楽部の陰謀」は……古典ミステリー好きにはたまらないんだろうなあ。とりあえずアガサ・クリスティーをある程度知らないと全然おもしろくないと思う(『アクロイドを殺したのはだれか』読んでおいて助かった)。クリスティーさえ知っていれば、他の古典ミステリーを読んだことなくても話を理解することはできて、この作品の良さも理解できると思う。ただ、それと「この作品を楽しむ」の間にはもう一つハードルがあり、ぼくはそのハードルは超えられなかった。あとこれだけ純粋な(?)ミステリーなので、短編集の統一感を壊している感じはある。

「バベルの牢獄」は、泡坂妻夫を思い出す小説で、こういうの嫌いな人はめっちゃ嫌いそうだよねー。ぼくは大好きです。あとボルヘスモチーフの使い方も地味にうまい。

「論理蒸発 ノックス・マシン2」は微妙。話自体は「ノックス・マシン」と似たような感じだけど、読者への挑戦状がブラックホールで云々のくだりにあまり説得力を感じなかった。絵面も地味だし。