今年の10冊(2019)

2019年に読んだ、印象に残った本およびその印象のまとめ(小説とノンフィクションをそれぞれ10冊ずつ)。


小説編

今年のベストは伴名練『なめらかな世界と、その敵』(早川書房、2019年)ゼロ年代~10年代のSF・アニメ・ラノベなどの文化の総括的な作品であり、短編小説としての巧みさやストーリーテリングの上手さも兼ね備えている。10年代の終わりにこの本を読めてよかった。

今年は伴名練以外にもSFを色々読んだ年だった。法月綸太郎『ノックス・マシン』(角川文庫、2015年)はミステリー作家によるミステリー風味のSFであり新鮮。テッド・チャン『息吹』(早川書房、2019年)は、約20年ぶりのチャンの短編集であり、『あなたの人生の物語』と変わらないキレの良さを見せつけてくれた。劉慈欣『三体』(早川書房、2019年)は今話題の中国SFの最先端であり、意外なバカSFっぷりに好感が持てる。ピーター・ワッツ『巨星』(創元SF文庫、2019年)はだいぶとっつきづらい短編集だったが、ぼくと興味の方向性が似ているためとっつきづらいなりに楽しめた。

純文学では、架空の論文の体裁で書かれた石黒達昌『平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,【完全版】』(アドレナライズ、2018年)が印象的で、無機質な文体の中に異様に心に響くものがあった。また木下古栗『人間界の諸相』(集英社、2019年)村田沙耶香『生命式』(河出書房新社、2019年)は、好きな作家の今までと変わらない短編集、ということで安心して読めた。ミステリーでは、予想外の暗さを備えた米澤穂信『犬はどこだ』(創元推理文庫、2008年)と、こちらもサブカルの集大成的な名倉編『異セカイ系』(講談社タイガ、2018年)がよかった。

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

ノックス・マシン (角川文庫)

ノックス・マシン (角川文庫)

息吹

息吹

三体

三体

人間界の諸相 (集英社文芸単行本)

人間界の諸相 (集英社文芸単行本)

生命式

生命式

犬はどこだ

犬はどこだ

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)


ノンフィクション編

今年のベストはマイケル・ルイスマネー・ボール〔完全版〕』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2013年)。データ分析によって大リーグを支配する話だが、異様なドライブ感と異世界転生的な面白みがあり、たいへんよかった。

その他にも今年はデータ分析関連の本を色々読んだ。実用書としては、Pythonでのデータ分析のやり方を必要最低限教えてくれる鈴木たかのりほか『Pythonエンジニア ファーストブック』(技術評論社、2017年)にお世話になった。また、松尾豊『人工知能は人間を超えるか』(角川EPUB選書、2015年)は、機械学習人工知能の手法を絶妙に噛み砕いて説明してくれる。人文科学にデータ分析を応用するエレツ・エイデン、ジャン=バティースト・ミシェル『カルチャロミクス』(草思社、2016年)ベン・ブラット『数字が明かす小説の秘密』(DU BOOKS、2018年)もよかった。

その他の本だと、松尾匡『新しい左翼入門』(講談社現代新書、2012年)は、左翼史を上と下の対立から捉え直す野心的な試み。また、進化論的な観点から人類の歴史n000年を見つめなおすユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(上・下)』(河出書房新社、2016年)も面白かった。斎藤美奈子『日本の同時代小説』(岩波新書、2018年)は、社会との関係を重視した現代日本文学史で、著者のリフレ派的な視点がうっすらと見えて良い。周燕飛『貧困専業主婦』(新潮選書、2019年)は、専業主婦の貧困の実証研究を行動経済学的な制作につなげようとする意欲的な本。また、中高生のスマホ使用の実態を教えてくれる鈴木朋子『親が知らない子どものスマホ』(日経BP、2019年)もよかった。

日本の同時代小説 (岩波新書)

日本の同時代小説 (岩波新書)

貧困専業主婦(新潮選書)

貧困専業主婦(新潮選書)