再公営化の流れが来ているのは喜ばしい/岸本聡子『水道、再び公営化!』

フランスやイギリスなど今まで民営化が進んでいた水道が、近年再公営化されるというトレンドがあり、それについて追った本。もちろん背景にあるのは反緊縮政策で、ポデモスとかコービンみたいな別のところで聞いた名前がここでも出てくる。個人的には民営化したもろもろのインフラを再公営化するというのはケインズ的政策の中でも優先してやるべきことだと思っているので、そういう再公営化政策がうまくいっているのを実感できてよかった。

まあ正直なところ、対岸の火事気味になっているところはあるかも。著者は日本もヤバいと煽ってはいるが、麻生太郎とかが民営化を匂わせてはいるものの、この本が出てから2年の間に水道民営化の魔の手が日本を腐らせるという状況にはなっていないと思うし。とはいえまあ、この程度なら多少煽っても問題ないような気もする。

あとちょっとおもしろいのが、著者はかなり強く左派色を打ち出しているんだけれども、この本には安倍政権の悪口は一切出てこないところ。まあ安倍政権はそれなりに経済左派だったので、麻生みたいな厄介政治家を除けばそこまで水道民営化の流れにはなりにくいと思うんだけど、それについて一切触れないというのは無理筋の批判をするよりかは誠実かなとは思う。その一方で、山本太郎をはじめとする日本の左派ポピュリズムについてノータッチなのはちょっとなあ。

どちらかというとフェミニズムよりも黒人文学の色が強い/オクテイヴィア・E・バトラー『血を分けた子ども』

当たり外れが激しい印象。退屈だったり異様に読みにくい短編もちょこちょこある一方で、「血を分けた子ども」「夕方と、朝と、夜と」「恩赦」あたりの最低限の説明でクールに決める感じはとてもかっこいい。なお、バトラーはフェミニズム絡みで言及されることが多い印象があったのだけど、少なくともこの短編集に限った話ではフェミニズム色は薄く、どちらかというと黒人文学の色が強いような。

類書と比べてもいい本だが、ややスベり?/戸田山和久『最新版 論文の教室』

ちょっと引用などについてのルールがしっかり書いてある本を持っておきたかったので、せっかくなので戸田山和久が書いた本書を購入した。全体的には、レベルの低い層に対するフォローが丁寧。この手の本だとたいていレポートや論文などの形式面ばかりが取り沙汰されがちだと思うんだけど、適切な問いの立て方や論文の方針の発想法など、意外とつまづきそうなトピックについてもフォローされており、かなりいい感じ。また、戸田山専門の科学哲学や論理学(専門というと微妙かもしれないが、教科書は書いているので、一応)の知見が論証の構造の説明にふんだんに活かされているのもポイント高い。

その一方で難点なんだけれども、著者は「類書は面白くないので、面白い本を書いたぞ!」と息巻いているんだけど……ややスベってない? まあ戸田山の文体はもともとくだけた口調やらオヤジギャクやらを頻繁に使用するものなので半分ぐらいはもともと微妙にスベってるというのはあるかもしれないし、ぼく自身はここまでくだけた文章じゃなくても読めるからというのもあるのだけれど、それにしても以前読んだ『教養の書』にしろ『恐怖の哲学』にしろこんなにスベってる感はなかった気がする。対話形式を一部取り入れているのが微妙なのかな。でも似たような形式でも『科学哲学の冒険』とかあったし……。面白い本だと自称している割にそこまで面白いわけではないのが、スベり感を生んでいるのかもしれない。

とはいえ、スベっていても内容の良さは変わらない。もし論文の書き方についての本を必要としているのであれば、内容的には文句なしにおすすめできる。

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2品目のおかずを楽に作りたいあなたに/勝間和代『勝間式超ロジカル料理』

やはり、勝間和代はほとんどすべての料理が完全代替材になっているタイプの人間なので、全部を真に受けるわけにはいかない。それでも、2品目のおかずを作る上で参考になるところはあると思う。あと、同じような趣旨の『勝間式 食事ハック』と比較すると、こちらは調理器具や料理の写真、料理のレシピが多数掲載されているため、そこは本書のほうが圧倒的に良い。

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山形浩生の経済エッセイの集大成/山形浩生『経済のトリセツ』

山形浩生の経済絡みのエッセイを集めたもの。気楽に読める上に示唆に富むものも多く、とてもいいエッセイ集。ある意味集大成的でもある。本書に収録されているエッセイの多くは山形のウェブサイトでも読めるのが欠点といえば欠点かな。

野沢温泉の源泉かけ流しはちょっと熱い/野沢温泉 千歳館

hb.afl.rakuten.co.jp
野沢温泉は源泉の温度がかなり高く、ちょっと熱すぎるのだけれど、千歳館ではそれをしっかり源泉かけ流ししている。まあ源泉かけ流しこそが至高という価値観もわからんでもないけれども、旅館に泊まって気楽に温泉に入りたいのに、いちいちセルフで水道水を入れて調整をしなければいけないのはちょい面倒な気もする。まあそんなに高級宿というわけでもないのでしょうがないといえばそうですが。

それ以外については値段以上の良さがあったと思う。特に立地が完璧で、隣に大湯があるのが素晴らしい。バスターミナルや土産屋も程よく近いのも嬉しい。

地域に根づく共同湯/野沢温泉 外湯

onsen.nifty.com
野沢温泉の地域では、数多くの外湯を共同体で管理しているそうな。流石にボランティアによる管理だと施設の充実性は望めないけれども、逆にいうとこれだけの設備でも温泉として成立するという驚きはある。シャワーすらないのはつらいとか、源泉の温度がかなり熱いので自分で温度調節するのは面倒くさいだとか、文句をつけようと思えばいくらでもつけれるけれども、まあたまにはこういうのもいいのではないか。