進化ってなーに?/大田俊寛『現代オカルトの根源』

 

現代オカルトの根源 (ちくま新書)

現代オカルトの根源 (ちくま新書)

 

   ブラヴァツキーという人がはじめた神智学というキリスト教の派生みたいなものがいろいろ広まって、新興宗教とかオカルトとかの元ネタになったよ、という話。副題にもある「霊性進化論」というのは、人間の霊魂が進化して神になるor退化して動物になる、という考え方。

で、なんで「進化」が大事なのか? それは、キリスト教的な世界観と進化論の対立があったからだそうな。進化論が創造神をぶっ壊して、キリスト教信者が宗教的アイデンティティを失ったところに「魂は進化するのだ!!!」っていう宗教が現れると魅力的に見える、という説明。そんなに変な説明じゃないと思う。

こういう図式論って普通は我田引水とかしちゃってダメダメになりやすいと思うんだけど、この本の場合は神智学の広がりを追う形にしているので、そういうダメさはあまりない。あと、「そうした思想は古今東西の宗教の諸宗教のなかにいくらでも存在しているように思われるかもしれない」が「(霊性進化論には)『進化』という近代特有の概念が、明確に刻み込まれている」(『現代オカルトの根源』kindle版、166)、という説明でもそれを回避している。うまい。

また、大田は、霊性進化論的な発想が「SFやアニメといったサブカルチャーの領域に至るまで、実に広範な裾野を有している」(141)としている。これも間違ってはいないと思うけど、その一方で「あれもこれも霊性進化論!!!」みたいな言説に陥っちゃったらもうどうしようもなくなるおそれがある。この本の場合は、そういう雑な言説は回避しようと努めているみたい。名前を挙げる作品もグラハム・ハンコック神々の指紋』や庵野秀明監督『ふしぎの海のナディア』ぐらい。大した論証もないので物足りなさは感じるものの、安心できるという側面もある。
 


ただ……物足りない部分もそこそこある。

 まず、この本は冒頭でオウム真理教の名前を挙げ、オウムがなぜ成長できたのか、という疑問を提示する。そして、元ネタを特定しようと神智学からの思想の流れを説明する。実際、オウムとか幸福の科学とかの思想の元ネタは神智学のようだ。

でも、これなんで日本でも流行ったの? 「オウムという宗教団体が短期間のうちに急成長することができたのは、日本社会全体に、ある種の終末意識が浸透していたからであることは否定しえないだろう」(71)と大田は説明するけど、うーーーーーん。そんなような気はするけど、じゃあなんでそんな終末意識が浸透していたのかと言われると説明に困るところ。「キリスト教的な世界観と進化論の対立」という理由付けで欧米で霊性進化論的発想が広まったという説明が上手だからこそ、この点は物足りなさを感じる。『オウム真理教の精神史』も読んで勉強します。

 


そして最大の問題点(とぼくが思うもの)は、霊性進化論は進化という概念を取り入れたんだけど、その進化に対する理解がかなりめちゃくちゃであることの指摘がないところ。

霊性進化論って、別に「霊性が自然淘汰されて発展していく!」みたいな話ではない。単に、人間の霊性がレベルアップして神になる、みたいな言い方。退化して動物になるっていうのはさらにひどい。だって退化って進化の一種だもの。人間はサルから進化したけど尻尾は退化しました。これって動物化? 違うよね。

ちなみに、大田は進化について変な理解をしているわけではない。それは、リードビーターという人の思想の説明をしているところで、リードビーターが悪しき秘密結社とする「闇の同胞団」の主張を「適者生存・弱肉強食という原理に基づく、ダーウィン本来の進化概念に近いことは明らかだろう」(577)みたいに表現していることからもわかる。けど、だったらそれについても指摘をするべきではないかなと思った。

 


そして、「霊性進化論は進化論をちゃんと理解していない」というところで思いついた余談。これって、ポモとかエセ科学とかと同じじゃないか?

ポモの方々が適当な理解を元に数学とか使って、そのダメさがソーカル事件で暴かれたというのは有名な話。水素水やらEM菌やらも、科学用語をちりばめておいて、実は全然科学的じゃない。

これって、要は「科学」という権威を使って、科学をよくわかっていない人を騙すっていう手段でしょ。それって霊性進化論も同じなのでは? さっきも言った通り大田は、キリスト教と進化論との対立でキリスト教が破れちゃったから、霊性進化論的な発想にニーズがあった、という説明をする。けれど、進化論(とは全く言えないものだけど)を霊性進化論が振りかざしていたから人々(バカ)が納得した、という側面もあると思う。そういえば幸福の科学も似たような手法使ってるのかな?

 


というように、消化不良な部分も結構ある。けどそれはそれでおいておいて、オカルトっぽい話のまとめとして十分いい本。だれも読みたくないようなオカルト宗教を説明してくれるのは凄いありがたいと思う。オカルト本なんてもう手に取る気も起きないもので……。
 
 
ほんとにほんとの余談。大田俊寛ってオオタトシヒロって読むの!? ずっとシュンカンって読んでた。お坊さんが学者として活躍している姿を勝手に想像していたのでショック……。