ソシュールとハム太郎

 

とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ

とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ

 

 最近たまたま、早坂吝『虹の歯ブラシ』とか下條信輔『〈意識〉とは何だろうか』とか橋爪大三郎『はじめての構造主義』とか祖父江孝男『文化人類学入門』とか、言語学が微妙に絡む本をいろいろ読んだ。こういった本を読んでいると、ソシュールがいかに人文科学に巨大な影響を与えたのかとか、『一般言語学講義』の新訳が出たんだしこれを期に読まなきゃとか、いろいろと意識高そうなことを思わないでもない。

そんなことを考えているときになぜか突然、「とっとこハム太郎」のゲームのことを思い出した。

 

小学生の頃のぼくはゲームが大好きだった。けど、ぼくの家では中学生になるまで、「ゲームソフトは夏冬休みに1本ずつだけ買ってもらえる」というルールがあった。当然ゲームを1本クリアするのには半年もかからないので、そのゲームをクリアしてしまうとやるゲームがなくなってしまう。困ったぼくは、妹のゲームを借りてやりはじめた。その一つが「とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ」だった。

このゲーム独特のシステムとして、「ハム語」というものがある。これは、ハム太郎たちが使うジェスチャーみたいな言葉で、このハム語を集めるのがこのゲームの目的の一つである(ニコニコ大百科とかにリストがある)。

で、このゲームのイベントの一つに、カラスと友達になるというものがある。その中で、カラスに「おまえたち(ハムスター)の言葉で友達ってなんて言うんだ?」と聞かれて答える場面がある。選択肢は「ともち(ともだち)」「ポケらん(わすれる)」「すかぴー(ねる)」「ちーぷる(トイレ)」の4つ(さすがにこんなこと全部記憶しているわけがない。ゲームカタログで裏とりをしました)。「ともち」と答えればいい。

というのが正解なんだけど、ぼくは「ちーぷる」を選んだ。たぶん、「ともち」を手に入れてなかったか、選択肢のカーソルの初期位置が「ちーぷる」に設定されていて、連打してたら間違って押してしまったかのどっちかだと思う。

その答えを聞いたカラスは、「ちーぷる」が「友達」という意味だと思い込んでしまう。それ以来、カラスとの会話では「ちーぷる」という単語が飛び交った。ちなみに「ちーぷる」のジェスチャーは、立ち小便の格好をして下半身を左右に震わせるというもの。なんてお下品。

とはいえ……ぼくは「カラスの言う『ちーぷる』が『友達』という意味である」ということをちゃんと認識していたので、久しぶりにカラスと会話して「なんでこいつトイレのこと話してんだ」みたいなことは思わなかった。ちゃんと「ちーぷる」を「友達」と認識して、カラスのセリフを読んでたと思う。

 

この一連の出来事は結構印象深かった。でもまあ、大したエピソードでもないし今の今まですっかり忘れていた。

ところがそれを、ソシュールとかのことを考えてたときに突然思い出した。これって言語の恣意性とかシニフィアンシニフィエとかじゃん!!! って。

それだけ。でもなんか、幼いころのどーでもいいエピソードがいま勉強していることとつながって、不思議な感慨を覚えた。

 

新訳 ソシュール 一般言語学講義

新訳 ソシュール 一般言語学講義