脱原発というのは大変難しい問題で、課題の山積みっぷりはすさまじい。でも、だから原発推進するべきかというとそういうわけではなく……。
この本は、東日本大震災直後からそれぞれドイツとフランスに滞在した二人の記者によるルポルタージュで、前半部分がドイツの脱原発、後半部分がフランスの原発推進(と縮原発)の事情を追ったものになっている。ルポという形式である以上情報の信頼性は多少揺らぐ部分もありますが、まあそれはそういうものと割り切っておけば大丈夫でしょう。
さてこの本は、脱原発を唱える方々が喜びそうなことはあまり書かれていない(そのことは、原発をめぐる政策が大きく違うフランスとドイツのことを1冊の本にまとめたところからも明らかだと思うけど)。前半のドイツパートでは、メルケルを出発点に脱原発を目指してみたはいいものの、石炭の二酸化炭素排出やら送電設備の建築やら、新たな問題が山積みとなっていることが描かれる。当たり前だけど、脱原発ってそんなお気楽なものではないのよね(あとどうでもいいんですけど、ドイツには「原発遊園地」なんてものがあるらしい! それを聞くと、東浩紀の福島観光地化計画も、あながち無茶苦茶な話ではなさそうな)。
じゃあ、後半のフランスパートで描かれているのはユートピアか? もちろんそんなことはなく、フランスには地震はないけどテロはあって、やっぱり脱原発ではなくとも縮原発はしなければならないという流れに。でも代替案としての洋上風力発電も、地元漁師との争いで揉めて、ごにょごにょ……。
という風に、この本は何かを主張するものとしては明らかに歯切れが悪く、そういうのを期待して買うと期待はずれになるとは思う(そもそもドイツとフランス並べてる本にそんなこと期待するほうがバカなんだけどね!)。
では、それは悪いことなのだろうか。もちろんそんなことはなく、原発なんていう大政策はどっちに振れようが大量の不和を生むということをしっかり書ききったと思う。なのでそういう意味で貴重なルポルタージュになっている。寓話としても読めます。
個人的な不満は、ヨーロッパの電力輸出入の事情が手薄なとこかなー。日本は島国で電力の輸出入はしてない(よね?)ので、そもそも電力の輸出入というのがどういう概念なのかもわかりづらいと思う。そういう地理環境の違いのせいで、ドイツは脱原発したけどフランスから電気買ってるみたいな話で変なデマみたいなの流れることになるんだと思う。
と偉そうに言ってみたものの、ぼくも向こうの電力事情よくわからん。せっかく独仏並べてるんだから、そういうところもがっつり説明がほしかった(あるいはそういう話に強い人に解説書いてもらうとか)。
とはいえ、立派な本です。変な思想にかぶれることもなく、ややこしくて気が滅入ってしまうような事情をよくまとめたと思う。