象牙と進化論リテラシー

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おー、「進化」ですかあ……。

ぼくは、結構な割合の人間が、ダーウィニズムすらちゃんと理解していないということをなんとなく知っているので、まあ驚きはしないけれども、あらためてこう見せられるとげんなり。

ところで、こういう進化論リテラシーの低さって日本特有のものなの? それとも世界レベルで普遍的に見られるものなの? ということで元ネタの記事にも目を通してみた。

 

ライブドア記事のまずいところ

まず、くどいかもしれないけど、ライブドア記事の変な部分を検討してみよう。

牙のために殺される、ならばいっそのこと最初から牙のない生き物になろうというのです。

まあお約束ですが、象は「牙のない生き物になろう」なんて思っていません。ちゃんとしたデータは手元にないけど、人為選択が起こっていることは容易に推測できる。一応レトリックとしてそういう言い方をすることも……ないとは言い切れないけど、不用意だよね。ついでに記事全体を見れば、この記事の筆者が変な勘違いをしていることは明らかでいいと思う。

チャリティ団体Elephant Voicesのトップで、象の進化を30年以上観察するJoyce Poole氏は、タイムズ紙の取材にて、密猟の激しさと牙なしで生まれるメスの象の割合には直接的な関係があると語ります。

これも、間違いというと言いすぎかもしれないけど、まずい。「密猟増える→象牙のある象の割合が減る→象牙なしで生まれるメスの象の割合が増える」っていうのを「密猟の激しさと牙なしで生まれるメスの象の割合には直接的な関係がある」と要約するのは明らかに言葉足らず。

……って最初読んだときは思ったんだけど、よくよく見るとこれタイムズ紙でJoyce Pooleっていうひとが言ってたことの紹介なんだよね。なのでライブドア記事の過失とは言えないです。ごめんなさい。

現在、密猟の取り締まりにより、最盛期と比べ象に及ぶ危険は減少しています。さて、ここから牙を取り戻すのか、それとも忌まわしい過去の思い出として完全に消え去るのか…。

いやまあ、進化論理解してないのはいいですよ。でも、「間違った進化論」を前提にしたら、密猟が減ったら象は象牙を取り戻すんじゃないの? なんで迷うの? それとも、「密猟の取り締まりがうまくいかずに、密猟の件数が再び増える可能性」を懸念してるの? よくわかんない……。

人間とは罪深き生き物ですが、ついに進化の在り方にもからんでまいりました。

そして極めつけが冒頭のこの一文。とりあえず「(人為選択も含めて)動物のからだが変化して優れた性質を持つこと」を、この記事内における「進化」の定義としてみよう。そうすれば、この文章はおかしい文章にならずにすむだろうか?

そんなわけないです。人為選択はそれこそダーウィン種の起源』でもあれこれ論じられている。こういう書き方をしてしまうということ自体、単なる進化論理解の問題だけではなく、人間による自然への影響全般に対する無関心さを浮き彫りにしていると思う。

 

Independent記事はたぶんまとも

www.independent.co.uk

さて、このライブドア記事のソースであるIndependentの記事はどうかというと……ざっと読んで見た限りではたぶん問題ないと思う。

まず全文を通して「evolution」といった単語はまったく使われていない。副題に「evolving」という単語が使われているのはちょっと違和感あるけど、一応「人為選択による変化」を「進化」に含める立場もあるといえばあるし、レトリックを優先して記事などの題名が不適切になるということも往々にしてあることなので、白寄りのグレーでいいんじゃないでしょうか。

そして、記事の中身そのものもまとも。 "The species could become extinct" とか "altering the gene pool" とか、むしろ進化論や人為選択をちゃんと理解していないと出てこないような表現がちらほらあって立派。

 

結論

少なくとも、ライブドアの記事の筆者は進化論をまともに理解しておらず、Independentの記事の筆者はある程度ちゃんとした理解をしている(もちろんそれを日本国民全体やイギリス国民全体に拡張させることはできないけど)。さすが進化論発祥の地、えらい。

 

種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫)

種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫)

 

 

種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)

種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)