2016年に読んだ、印象に残った本およびその印象のまとめ(小説とノンフィクションをそれぞれ10冊ずつ)。
小説編
今年読んだ小説だと、村田沙耶香『コンビニ人間』(文藝春秋、2016年)と早坂吝『虹の歯ブラシ』(講談社ノベルス、2015年)がぶっちぎりの2強。『コンビニ人間』はとにかく不器用な人間が社会に適合しようとする話で、鬱々となりつつも心底感動。『虹の歯ブラシ』は短編そのものは微妙なものの、ラストの畳み掛けが圧倒的で話の広がりに驚いた。この2冊は本当におすすめできます。
日本文学だと、『コンビニ人間』のほかには、筒井康隆『文学部唯野教授』(岩波現代文庫、2000年)が、さすがのベテランといった感じ(ついでにおべんきょうにもなる)。木下古栗『グローバライズ』(河出書房新社、2016年)も、ファンとしては書籍が出るだけでも嬉しい限り(でももうちょっとメチャクチャで面白いものが出てほしいところでもある)。
海外文学だと、ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』(新潮文庫、1997年)は薄いくせに内容は重厚で印象的。ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー(上・下)』(河出文庫、2016年)もノリノリのヒトラー節を見事に再現していて面白かった。
ミステリーだと、前述の『虹の歯ブラシ』以外では、早坂吝『誰も僕を裁けない』(講談社ノベルス、2016年)はやはり周到に練られた構成で、前作ほどではないにしろびっくりする。あと、殊能将之『キマイラの新しい城』(講談社文庫、2007年)は、変なのー。でも面白いです。
SFはあまり読まず。野崎まど『2』(メディアワークス文庫、2012年)は過去作の再利用がとてもうまくて満足(でもこれSF?)。ディック『人間以前』(ハヤカワ文庫SF、2014年)は、イデオロギーむき出しの気持ち悪い短編と、パラノイアをそのまま小説にしたようないい短編が混在していて、良くも悪くも印象には残ってる。
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ノンフィクション編
今年読んだノンフィクションだと、なんといっても山形浩生『たかがバロウズ本。』(大村書店、2003年)がベスト。文学研究でここまで説得力を維持しながら話を広げることができるというのをぼくは初めて知ったし、文芸評論にあらゆる知識が必要だということも思い知らされた。
その流れで色々と政治や経済の本を読み漁って、いろいろと面白いものを見つけられた。稲葉振一郎『経済学という教養』(ちくま文庫、2008年)と斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書、2016年)は、ややこしいことになっている今の政治を考える上で非常に参考になる本。オスター『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』(東洋経済新報社、2014年)は実用書と思わせておいて統計や経済学まで学べる良書。
文芸評論はあまり読まなかったが、待望のラテンアメリカ文学の入門書、寺尾隆吉『ラテンアメリカ文学入門』(中公新書、2016年)が収穫。違法アップロードの文化史をまとめたウィット『誰が音楽をタダにした?』(早川書房、2016年)や、ゲームの思想史として読めるさやわか『僕たちのゲーム史』(星海社新書、2012年)も面白い。
実用書としては、佐藤雅昭『なぜあなたは論文が書けないのか?』(メディカルレビュー社、2016年)は論文執筆の作業的な側面を徹底的に指摘していて、盲点を突かれた感じ。祖父江孝男『文化人類学入門』(中公新書、1990年)は普通なら啓蒙書で終わってた本を実用書にまで高めていて感動した(ぼくが実際使うことはないけど)。
最後に、大田俊寛『現代オカルトの根源』(ちくま新書、2013年)。これは正直言って不満点の多い本だと思ったんだけど、わざわざブログを作ってまで文句を言う気にさせてくれた本でもある。そういうわけで一応感謝したい。
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