たのしいたのしいお笑いエコノミクス/バウマン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』

 

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

 

 自称「お笑いエコノミスト」のヨラム・バウマンによるミクロ経済学の解説書。独特な構成と絵の活用、そして一流の説明により、かなりとっつきやすい本になっている。

 

なんといっても特徴的なのが、この本の不思議な構成。この本では、合理的な個人の話をしたあとで、行動経済学の話を進め、その後に比較優位の話をしてからゲーム理論に移り、そしてその後ようやくよくある需要供給曲線に移る。こんな説明の仕方見たことない! でも、読んでみればわかるけど、この流れは意外とスムーズだ。

以前稲葉振一郎『経済学という教養』を読んだとき、ぼくは需要供給曲線のグラフが出てこないことを褒めた。その後、需要供給曲線もやっぱり大事だと思い直したけど、だからとはいっても、いきなり需要供給曲線を出すのがとっつきやすいとは全く思えない。そういう意味で、この本の構成はぼくや稲葉が考えていることに近いんだと思う。ドグマ化された構成よりずっととっつきやすいと思う。

ノーベル経済学賞というわりと俗っぽいものに目を配っているのもポイント。アマルティア・センの、貧しい人には食べ物ではなくお金を与えろという議論とか、全然知らなかった! ぼくたちは、世間で褒められるノーベル経済学賞をとったようなえらーい経済学者に対して、ふんわりとしたイメージを抱きがちだけど、そういうのも多少は回避できるように努めている。

あとはやはり、マンガと経済学は親和性が高いと思う。経済学ではよくグラフを使うが、そのグラフがマンガという媒体とスムーズに噛み合うのでとても読みやすい。

 

欠点は、手を動かして計算する機会がないため、概念の理解には役に立っても、実際にそれを使うほど理解はできないところか。とはいっても、さらっと読むことを目的とした本にそういうのは邪魔だろう。訳者の山形も、そういうのがほしければスティグリッツやマンキューやクルーグマンを読めと言っている。

 

 

 

 5/24追記

その後、マクロ版も読了。ミクロ版に比べるとやはり定説が完全にはまとまっていないので、やや散漫な印象も受けた。でも、お笑い性能は相変わらずで、突然ポール・クルーグマンの宇宙貿易論文ネタが出てきたりしてゲラゲラ笑った。

この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

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