面白かった本(2017/5)

5月に読んで面白かった本のまとめ。

 

 ピンカー『人間の本性を考える』(NHKブックス)
人間の本性を考える  ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)

 
人間の本性を考える  ~心は「空白の石版」か (中) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (中) (NHKブックス)

 
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

 

 ブランクスレート説をボコボコに叩く本。似たような本として去年橘玲『言ってはいけない』がベストセラーになったけど、この本に比べるとだいぶ薄っぺらいという印象が拭えないし、こっち読んだほうがいいんじゃないかなー。

個人的に特に勉強になったのが自然主義的誤謬の話。こういう概念は最近、ハチミツを赤ちゃんに食べさせてしまった事件とかがあって、だいぶ身近になったと思うんだけど、そういう事例がかなり広範囲に渡って見られるというのには気づいていなかった。が……科学的な話を根拠に置かずに率直に「道徳」を褒めるみたいなのは、一見かなーりダサく見えるし、現代思想とかとは折り合いが悪そうなので、科学をどうしても根拠にしたいという気持ちはまあわからなくもないのがつらいところ。

ところで、この手の啓蒙書の著者が、ときどき異様に「一般人の見識」を高く見積もるのはなんなんだろう(これは吉川浩満『理不尽な進化』牧野淳一郎『原発事故と科学的方法』を読んだときにも思ったのだけど)。ときどき「自閉症になるのは環境のせい」みたいな言説も目に入ることあるし、ブランクスレートは(この本の邦訳が出てから10年以上経った今でも!)まだまだ粘り強いと思いますぞ。

 

アームストロング『レモンをお金に変える法』(河出書房新社
新装版 レモンをお金にかえる法

新装版 レモンをお金にかえる法

 
新装版 続・レモンをお金にかえる法

新装版 続・レモンをお金にかえる法

 

 経済学全然わからないので泣きながら読みました。1冊目のほうはミクロ経済学の解説なんだけど、話が起業で限定されているのでいまいち。一方2冊目のほうは結構本格的なインフレ及び不況の解説で素晴らしい。クルーグマンの子守論文とかよりもとっつきやすい不況の解説かも。

ところで、この本の新装版が出版されたのは2005年で、小泉政権構造改革の真っ只中。平成不況から全然抜け出せていなかった時代だ。なので訳者は「現代だと財政政策も金融緩和もあんま効かないのかもね~でもこれは古臭いケインズ経済学だから許して~」みたいなことを『続』の解説で言っている。でも、アベノミクスによる金融緩和の効き目を見る限りでは、平成不況のときが変なことになってて、それ以外ではケインズ経済学は全然通用するんじゃないかと思う(そしてそういう意味でも、『続』は「今こそ」読むべき本だと思う)。

 

バウマン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』(ダイヤモンド社
この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

 

 お笑いエコノミストによるミクロ経済学の入門の入門。詳細はここ

 

バウマン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』(ダイヤモンド社
この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

 

 ↑の続刊。『ミクロ』に比べるとやや散漫な印象も受ける一方、それはそもそもマクロ経済学という分野がそういうものだからという理由もあるので厄介。が、マクロ分野の諸問題がうまくまとまっているし、面白さは相変わらずなので十分満足。

 

 芥川龍之介奉教人の死
奉教人の死

奉教人の死

 

 芥川ってこんな小説も書いてるんだねー。叙述トリックまがいのどんでん返しもあり、がんばればボルヘス的な読み方もできそうで不思議な読後感。

 

川越敏司『はじめてのゲーム理論』(講談社ブルーバックス
はじめてのゲーム理論 (ブルーバックス)

はじめてのゲーム理論 (ブルーバックス)

 

 梶井厚志のゲーム理論入門を謳った本にだまされてからゲーム理論の勉強をサボってたんだけど、ようやく重い腰があがりました。ナッシュ均衡・パレード効率から入っていろいろなトピックを漁る、手頃な概説書だと思う。でも、量子ゲーム理論はわけわかんなかったな。

あと欠点としては、演習問題が全然ないので、この一冊で身につけるのは厳しいかも。でもまあ、よっぽど特殊な人でない限り、厳密にゲーム理論を身につける必要はなくって、適宜この本とかを読み返せばすむとは思うけど。

 

松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)
この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案

この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案

 

 今の日本の野党・左派は必読の経済政策指南書。ここ

 

森川智喜『キャットフード』(講談社文庫)
キャットフード (講談社文庫)

キャットフード (講談社文庫)

 

 猫ちゃんがスプラスティックな推理バトルを繰り広げる怪作。ここ

 

十文字青灰と幻想のグリムガル(1~10)』(オーバーラップ文庫
灰と幻想のグリムガル level.1 ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ (オーバーラップ文庫)
 

 悪くなーい。異世界転生モノなんだけど異世界転生っぽさがなくって、むしろ多様性や共生とかに向かう感じ。異世界転生の皮を被った帝国主義者どもが跋扈するライトノベル界隈においては、なかなか良心的な態度だと思う。ひたすら地味でご都合主義がほとんどないストーリーも珍しい。

ただし、視点の不安定さがかなり気になる。一人称と三人称がごっちゃになったような文章でそこが気になるとかなり読みづらいと思う。

 

大澤めぐみ『おにぎりスタッバー』(角川スニーカー文庫
おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

 

 圧倒的な文体で無軌道なストーリーに飲み込まれる。ここ