哲学の最前線の手際の良い紹介/岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』

 

いま世界の哲学者が考えていること

いま世界の哲学者が考えていること

 

 日本ではまだちゃんと紹介されていないポストモダン以降の哲学を簡潔に紹介した本。この手の本はまだあまりなく、一応戸田山和久『哲学入門』もあるけど、あれは思いっきり自然主義に偏った本なので、ぼくは好きだけど中立性は薄い。この本は、かなり中立的な立場に立っているように思えるので、そのへんは心配しなくても大丈夫。

 

 また、著者が裏テーマ「哲学はどのように役に立つのか?」を設定して、それに基づいてバイオテクノロジー、資本主義、ITなどいろいろと具体的なトピックを設けているのもポイント。そして、ぼくたちの常識よりは一歩も二歩も進んだ議論が展開されていて驚かされることもちょくちょくある。ぼくの場合だと、ゲノム編集を肯定的に評価するリベラル優生学とかは全然知らなかったので大変勉強になりました。

 

もちろんいくつか文句もある。まず、アマルティア・センとかロンボルグとかドーキンスを哲学者扱いするのは、いくらなんでも我田引水すぎ。確かに彼らはとても立派な学者ではあるし、哲学にも影響を与えていないわけではないけれども。ついでに、ドーキンスの宗教絡みの話は、ぼくはけっこうめちゃくちゃだと思う。

あと、やっぱりどの話も思想ガイド・ブックガイドにとどまっており、若干説明も足りない感は否めない。ぼくはゴリゴリの自然主義派の人間なので自然主義に関する説明は理解できたけど、メディア・技術論も新実在論もこの本だけどあんまり理解できないと思う。ま、これは自分でさらに勉強する必要があるということでしょう。

 

とはいえ、そもそも全然紹介の足りてないこれらの思想を紹介したという点では立派。さらに、戸田山みたいに露骨にいずれかの主義に偏ることのないというのもえらい。自称哲学好きは読んでおくといいと思います。

哲学入門 (ちくま新書)

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