SF的な日本で円満に暮らすっていうこと/円城塔、田辺青蛙『読書で離婚を考えた。』

 

読書で離婚を考えた。

読書で離婚を考えた。

 

 小説生成エイリアンこと円城塔とホラー小説家の田辺青蛙の夫婦が、お互いに本を勧め合うというかたちでコミュニケーションを取ろうとするファーストコンタクトSF。しかしコミュニケーションはあまりうまくいかず、円城はダイエットを始めるわ田辺は離婚をする夢を見るわでどんどん収集がつかなくなり、最終的には相互理解をほとんど諦め、でも夫婦をやっていこうという投げっぱなしエンド。

また、そもそも設定に難があり、円城と田辺が遠距離恋愛で付き合い始めるも数ヶ月で結婚し、しばらく東京と京都で別居婚をしていただとか、碇シンジのセリフと円城塔という名前をかけて、結婚式では円城が碇ゲンドウのコスプレをして田辺が碇シンジのコスプレをしただとか、荒唐無稽になってしまっているのは残念なところ。それから、そもそもなんで読書でコミュニケーションを取らなければいけないのかというツッコミもある。普通ファーストコンタクトSFでのコミュニケーションといえば素数を始めとする数学が出発点なんだけれども、この本だと逆に円城が木村俊一『連分数のふしぎ』を勧めていて、「おお、実は田辺がエイリアンだという叙述トリックだったのか!」とか思ったり。

 

でも、そういうお話の理不尽さはあるけれども、ドタバタ劇としてとても楽しめる(特に円城にはびっくり。円城がユーモアたっぷりの文章を真顔で書くのが得意、というのは知ってたけど、こんなに生活感あふれつつ円城っぽい文章も書けるとは)。また、ふたりがこの企画を通じてどんどんギスギスしていき、嫌味の交じる量がだんだん増えていくあたりも読みどころ。

それからもちろん、読書ガイド(?)としても使える。ぼくは円城の紹介する本で、けっこう面白そうな本を見つけたので喜ばしい(あと、どうでもいいけど、円城がぼくの大好きなエミリー・オスター『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』を紹介していたので嬉しかった。それを受けての田辺の感想も、立派な書きぶりで、ほんとよいこと)。

それから、ふたりともお互いのことを全然理解できないものとしてはいるんだけど、それでもそのなかにほんのりと愛情のようなものがあることが読み取れるのは、とても胸キュンできる(果物料理の話とか)。

 

なんにせよとても楽しめました。円城塔田辺青蛙夫婦にしか書けないすばらしい本だと思う。