中二病がこんなに不快だとは/早坂吝『ドローン探偵と世界の終わりの館』

 

ドローン探偵と世界の終わりの館

ドローン探偵と世界の終わりの館

 

 ミステリー界の問題児・早坂吝による、ドローンを駆使した長編ミステリー。援交探偵シリーズほどの哲学はないものの、十分楽しめるレベルの佳作ではある。ただし、主人公が中二病でひたすら痛いので、下手すると今までの早坂吝の小説よりも読むのが苦痛かもしれない。

この記事はとくにネタバレありません。

 

トリックについては、やはりさすがに安心の早坂吝といった感じ。かなり荒っぽい大技なので嫌いな人はいるかもしれないけど、ぼくは素直に感心した。一応この小説は「館モノ」に分類されるんだけど、このアクロバットさはなかなか珍しいはず。

早坂は、援交探偵シリーズでは存分に盛り込まれてる「哲学」みたいなものを、他のシリーズでは全く見せない(わざとやってるのかも)。なので、やはり援交探偵シリーズと比べるとちょっと物足りなさはある。でもこの小説では、トリックのアクロバットさがその物足りなさを十分補えているとも思う。なので、そこについてはあまり気にならなかった。

 

それより文句をつけたいのは、主人公の造形。主人公はドローンを利用して事件を解決するドローン探偵なんだけど、なぜか中二病という設定になっている。そしてこの設定の意味は……あまり存在しない。一応、この小説の事件を通して、「過去の呪い」ともいえる中二病を捨て去り、主人公は成長できた、ということにはなっているが。

もちろん、あんまり意味のない設定があるというだけなら別にいい。でもこの小説では、主人公の中二病設定はかなり不快指数の高いものとなっている。まず、主人公の脳内には擬人化されたドローンがおり、推理中などはその脳内ドローンちゃんと主人公が会話をするんだけど、これが単なる中二病だとわかっている読者にとってはとにかくうっとおしい。さらに、主人公はこの脳内ドローンちゃんを、あろうことか主人公の友人たちと同程度に価値があるものとして扱っており、主人公の友人たちが嵐の中にある館に閉じ込められている状況でも、嵐で脳内ドローンちゃんが死んでしまうとかほざいてドローンで助けを呼んでみようともしない。他に人格が極端に破綻しているという描写があるわけではないので、このシーンは(物語の都合もあるとはいえ)ひたすら浮いているように見える。

さらにいえば、個人的には、中二病の名のもとに明らかに「異常な」行動をさせつつ、それをギャグとして消化するというのが嫌いだ。そこには、殊能将之『ハサミ男』みたいに二重人格を精神障害として大切に受け止める態度も、田中ロミオ『AURA 魔竜院光牙最後の闘い』みたいに中二病と真摯に向き合いそれを肯定する態度も存在しない。良い悪いの問題というより、ぼくが単に嫌いだ、という話ではあるのだけれど。

 

そういう問題が気にならなければ、流行りのガジェットを使った佳作として楽しめると思う。