純文学版湊かなえ?/今村夏子『あひる』

あひる

あひる

 

 どの短編も、短くまとまっており、それでいてなかなか破壊力がある。こういう作家は純文学系にはたくさんいそう(村田沙耶香とか藤野可織とか)に見えて、ここまで黒い話を全面に押し出すタイプの作家は意外と少ない。なので、わりと新鮮な気持ちでとても楽しめた。

 

……んだけど、ちょっと気になったのは、この小説の評価がアマゾンで思ったよりも低いこと。いやもちろん、アマゾンの評価がどれだけ低かろうが高かろうがぼくの小説に対する評価は変わらないのだけど、その一方で、自分が好きだと思った小説になぜ低評価がついているのか、ということは気になる。

で、思ったんだけど、もしかしてこの作家、イヤミス的な読まれ方をしてる? たしかにこの小説は、イヤーなモチーフの典型例をわりと普通に持ち出す(表題作における新興宗教とか、「おばあちゃんの家」における老人虐待とか)。そこら辺がイヤミスと似たような読まれ方をしているのであれば、低評価も納得(湊かなえの小説もアマゾンの評価は低い印象がある)。さらにいえば、普段イヤミスを読んでる読者層は、純文学のあまりに起伏のないストーリー展開に物足りなさを感じるのでは。そう考えると、なんかいろいろと腑に落ちた感じがした。

 

 以下個別の感想。

表題作であり、去年の芥川賞の候補作でもある「あひる」は、これはもうペットのあひるを次々と取り替えるというアイデアの勝利でしょう。この優れたアイデアのおかげで、純文学ではありがちな題材のつまらなさが完全に克服されている。

「おばあちゃんの家」は、老人虐待まがいのことをしている家族の話。アイデアとしては表題作に劣るものの、オチはわりとスマートになっている。ホラー短編としても読める感じ。

ところが、その次の短編森の兄妹を読んで、何がなんだかよくわからなくなってしまった。この短編は、なぜか「おばあちゃんの家」とつながりがあるようで、明らかに共通のモチーフがある。でも、なんでわざわざそんなつながりを書いたのかは全くわからない。ついでにいうと、一つの短編としては「おばあちゃんの家」のほうが面白いと思った。

 

 

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

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