最初は白なのにちょっとずつ黒ずんでいっていつの間にか真っ黒になる短編集/藤野可織『ドレス』

ドレス

ドレス

 

 藤野可織の小説の特徴をざっくり言語化するとすれば、「最初は白なのにちょっとずつ黒ずんでいっていつの間にか真っ黒になる小説」といったところだろう。藤野可織の小説は説明がやや少なく、断片的な情報を小出しにしてちょっとずつ話のアウトラインを描いていく傾向がある。そういう小説には、最初なんとなーくしか理解できなかった話の全体像がだんだんくっきりとしてくるという気持ちよさがある。

 

 

以下個別の感想。

「テキサス、オクラホマは、「私とドローンたちの秘めやかな関係」という紹介がされていたので、てっきりモノを愛するタイプの変愛小説かと思った。ところが蓋を開けてみれば、主人公が恋しているのは自己増殖をするようになったドローン、というわりとぶっ飛んだ設定でびっくり。主人公の恋人に対するやたら淡白な描写と、熱のこもったドローンに対する愛情描写のコントラストが印象的。ちょっと説明が多いのが玉に瑕か。

「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」は、まさに「最初は白なのにちょっとずつ黒ずんでいっていつの間にか真っ黒になる小説」の典型例。情報提示のコントロールが絶妙に上手で心地いい。この短編集でも白眉の出来。

「真夏の一日」は、皮膚に対する執着だけで1本短編を書いた感じ。皮膚描写の生々しさだけが印象に残る。

「愛犬」は、曖昧な記憶というテーマをわりとストレートに描いたもので、この手の作品としては典型的。あとまた皮膚の話でもある。

「息子」は、最初読み終わったとき、何の話なのかさっぱりわからなかったのだが、インタビューを読んでかなり納得。とともに、話をあまり理解できなかった自分の不明を恥じるばかり。

表題作「ドレス」もかなり面白い。奇妙なアクセサリーをつける女性たちとそれに翻弄される男たちの話。主人公にとってのアクセサリーの奇妙さが、ヒロインの手の冷たさによって表現されており、そこから伝わってくる疎外感が印象的。またこの小説では、主人公が「彼」という三人称で常に呼ばれており、そのことも主人公の疎外感を演出するのに貢献している。

「私はさみしかった」は、これマジで『早稲田文学』女性号に載ったんですか? 気持ち悪い痴漢の欲望の対象として女性の身体を描いているかと思ったら、いきなり主人公が他の女の子を痴漢するわゲイをいじめるわでびっくり。ぼくはもうちょいオーソドックスなフェミニズムに共感を寄せているので、ちょっと引いてしまったところはあるが、意欲作であることは間違いない。

「静かな夜」は、ちょっとした幻想ホラーであるとともに、移人称小説でもある。移人称による世界(パラダイム?)の転換はかなりうまく決まっているものの、ややモチーフが地味か。