面白かった本(2018/3)

3月に読んで面白かった本のまとめ。

 

 円城塔『プロローグ』(文春文庫、2018年)
プロローグ (文春文庫)

プロローグ (文春文庫)

 

 本好きは必読の痛快プログラミングエッセイ(?)。詳細はここ

 

フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男 他八篇』(岩波文庫、1992年)
悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

 

 全体的には薄味感がいなめなく、かなり読みづらい短編も多い印象。その中では「南部高速道路」がぶっちぎりでいい出来で、「追い求める男」もなかなか。

しかし、訳者解説の、「コルタサルはリアリズムをまやかしだと思っており、それに対するアンチテーゼとして非合理的な幻想小説を書いている」という話にはあまり賛同できない。この短編集に収められている幻想小説はたいてい悪夢的な話だし、そうではない「南部高速道路」は非日常の中で積み上げられてきた幻想的なユートピアが一瞬でもろく崩れ去る話だ。コルタサルはたしかに非合理性に興味はあると思うんだけど、それはかなりアンビバレントなものだと思うんだが。

 

 浅羽通明『大学で何を学ぶか』(幻冬舎文庫、1999年)
大学で何を学ぶか (幻冬舎文庫)

大学で何を学ぶか (幻冬舎文庫)

 

 おもしろい。さすがに古びている記述もいろいろと見られなくはないが、それでも日本社会そのものが抜本的な変革をしていない以上、あまり問題ないとは思う。「日本の大学」の実像を身も蓋もなく描き出している。
ただし、林真理子やら『東京大学物語』やら『ナニワ金融道』やら、やたらと創作物の登場人物を例に挙げるのは、かえって信憑性を損なっているように思う。濱口桂一郎『若者と労働』あたりを一緒に読んで、もう少し歴史的経緯を踏まえると、この本の主張の的確さもわかると思う。

 

オキシタケヒコ筺底のエルピス(1~2)』(ガガガ文庫、2014~2015年)

 かなり凝ったSF設定が話の単調さを救っている。異能バトルラノベのテンプレを踏襲しすぎとか、露骨に伊藤計劃の影響受けすぎとか、細かい不満はあるが、まあ明らかに設定と伏線をしっかり練っているのは明らかなので続きも読みます。

 

 玄田有史仕事のなかの曖昧な不安』(中公文庫、2005年)
仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 (中公文庫)

仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 (中公文庫)

 

 ちょっと古い本ではあるが、「曖昧な不安」をデータを駆使してうまーく明示する手腕は見事。一方で、処方箋としては微妙。

 

村上龍希望の国エクソダス』(文春文庫、2002年)
希望の国のエクソダス (文春文庫)

希望の国のエクソダス (文春文庫)

 

 村上龍の小説って、『限りなく透明に近いブルー』とか『69』とか読んだことあるんだけど、彼はその鋭い文章力でケムリや酒やクスリなどを書くため、読んでいるとたいへん気持ち悪くなるので苦手だった。でもこの小説は、暴力やらクスリやらセックスはほとんど出ていないため、村上の文章力をプレーンに楽しめた。
しかし、あるいはだからこそ不思議な小説でもある。この小説の随所に散りばめられた経済用語は、ラストはともかく中盤辺りまではあまり必然性はない。では単純な衒学趣味かというとそういうわけでもなく、普通の(純文学の)小説家はカネやケーザイなんていうイヤシイものには興味を持たない。だからこそ、一見あまり意味のなさそうな細部の経済についての記述に、異様なものを感じてしまう。

 

石川宗生『半分世界』(創元日本SF叢書、2018年)
半分世界 (創元日本SF叢書)

半分世界 (創元日本SF叢書)

 

 一級品の不条理短編集。ここ