世界観を再利用するとSF書くの楽なのかねー?/長谷敏司『My Humanity』

My Humanity

My Humanity

 

 現在放送中のアニメ「BEATLESS」の原作者・長谷敏司による短編集。どの作品も一定水準以上の短編にはなっており、そのうち「all, toi, toi」と「父たちの時間」はかなりの出来。SFの短編集って、露骨にクオリティの低いゆるふわ幻想文学短編が1〜2本くらい入っていることが多いんだけど、本書は気合いの入った短編ばかりなのでたいへん満足度は高い。

気になったのは世界観の再利用。本書に収録されている短編のうち、2本は『あなたのための物語』(ぼくは既読)の世界観を、1本は『BEATLESS』(途中で挫折。今度アニメ見ます)の世界観を再利用して作られている。そして、そういう世界観の再利用が小説的な効果を産むかというと、微妙。ただまあ、世界観を再利用する最大のメリットとして、作者がたいへん楽をできるという点はあるので、しょうがないといえばしょうがない。

 

以下個別の感想。

「地には豊穣」は、脳に文化をインストールできるようになった場合に民族アイデンティティーはどうなるのか? という話。現実世界の世界共通語としての英語とかとつながる面はありアイデアとしてはけっこう面白いのだが、ぼくは美しい日本とか(ダメなタイプの)文化相対主義とかが大の苦手なのでいまいちノリきれず。
「all, toi, toi」は大大大傑作。好き嫌いはどのような機能を持つのかという話を、まさかのペドフィリア性犯罪者の視点から語らせるというぶっ飛んだ構成。性犯罪者の気持ち悪さやクズっぷり、そして幼女に対する歪んだ愛情が非常に生々しく描かれている。
Hollow Vision」は……この小説のラストは、人間を超越したAIが下す決断は、「どのように」人間を超越しているのか、ということを描いているんだけど、このラストをどのように受け取るかで本作に対する印象はけっこう変わってくるんじゃないだろうか。ぼくは極めて滑稽な絵面に見えたのだけど、グロデスクと思う人もいるんだろうか。
「父たちの時間」もおもしろい。まず放射性物質を食べて増える自己複製ナノロボット、という設定が圧倒的に面白い。そしてその自己複製ロボットが、まるで生物の遺伝子のようにどんどん複製を重ねて進化し、どんどん化物みたいになっていく……というなかなか夢のある話。性淘汰の知見もきっちり踏まえられており、進化論オタクにはたまらない。

 

あなたのための物語

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BEATLESS 上 (角川文庫)

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BEATLESS 下 (角川文庫)

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