高度に発達したミステリーはAIと区別がつかない/早坂吝『探偵AIのリアル・ディープラーニング』

探偵AIのリアル・ディープラーニング(新潮文庫)

探偵AIのリアル・ディープラーニング(新潮文庫)

 

これはすごい。なにがすごいかというと、「AIが考えた犯罪」と「AIが考えた推理」のそれっぽさが半端ない。早坂吝お得意のバカミスがこのテーマと絶妙に相性がよく、これ本当にAIが考えたんじゃと思ってしまうほど。その意味では、探偵AIが成長して本物の探偵っぽくなる後半よりも、ヘタレホームズやバカモリアーティを楽しめる前半の方が面白い。

また、AIとミステリーの絡め方もたいへんうまい。とくに、フレーム問題と後期クイーン問題のアナロジーからAIに大量のミステリー小説を読ませるところなんかは本当にうまくてびっくりした。早坂吝ってこんなにインテリちっくな作家だっけ?(そーいえば京大卒でした) すげー。

欠点としては、俺たちの戦いはこれからだエンドおよびそのための宙ぶらりんの伏線が、エピローグで余韻に浸るのを邪魔してたような気はする。また、前半の完成度が圧倒的に高いのと比べると、後半は若干「普通のミステリー」っぽくなってしまうのは残念。それでもすごく面白いのでぜひ読んでほしい。

 

 おまけ。実は本書にはもう一つ、大切な役割がある。それは、「最初に読むべき早坂吝の本」という役割だ。

早坂吝という作家の重大な欠点は、他人に勧めづらいというところである。はいたしかに、『虹の歯ブラシ』をはじめとして、かれの援交探偵シリーズは傑作揃いである。でも……だからといって、援交探偵シリーズを他人に勧められるだろうか? ぼくはちょっと尻込みしてしまう。だって……援交探偵シリーズだよ?

だから、本書が出版されたのはたいへん喜ばしいことだと思う。まあちょっとラノベっぽいので多少は人を選ぶかもしれないが、それでも援交探偵シリーズとは比べ物にならないほど人に勧めやすい。あと文庫だし。これからは堂々と、本書を携えて早坂吝を布教していこう。

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

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虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

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