木下古栗と反緊縮

 東日本大震災の少しあとに出版された『早稲田文学 記録増刊 震災とフィクションの”距離”』という雑誌がある。雑誌名から容易にわかるように、震災のことについてみんなで執筆しましょう、というアレだ。

で、この雑誌に、木下古栗が「カンブリア宮殿爆破計画」というろくでもないタイトルの短編小説を寄稿している。タイトルからわかるように村上龍を元ネタにした小説で、村上龍みたいな意識たかそーなくせに震災にかこつけてなんか言おうとする連中を、木下古栗お得意の破滅的文体でまとめて成敗しようという、(木下古栗にしては)わりと真面目な短編小説なんだけど……。

 

 この小説にこんな文章がある。

 デフレ下にもかかわらず増税したくて仕方がない与謝野の亡き祖父が亡き祖母の膣に挿入したバナナが時空を遡りドカーン! タイムボカーン! ドカーン! その与謝野でさえ表向き慎む復興税を主張する菅の経済政策ブレーンのトチ狂ったブレーンがドカーン!(木下古栗「カンブリア宮殿爆破計画」『早稲田文学 記録増刊 震災とフィクションの”距離”』早稲田文学会、2012年、p.92)

ここで批判されている「菅の経済政策ブレーン」とは、菅直人政権で経済政策のブレーンを努めた小野善康のことである。この人は東日本大震災のあとに復興増税を主導した人物で、リフレ派・反緊縮派の多くからとても嫌われている。とはいえ、こんなことはある程度反緊縮とかに興味のある人間でないと知らないんだけど……。

なぜか木下古栗が、その小野を批判しているのである。なんじゃそりゃあという感じ。いやもちろん、減税や金融緩和や財政出動を肯定する小説家が増えてくれるのは嬉しいことではありますが、それをいっているのが木下古栗というのはきわめて意外な感じがある。