悪ふざけ一歩手前の死体遊びアンソロジー/藤井太洋ほか『屍者たちの帝国』

いやーいいわあ。伊藤計劃の小説の特徴の一つに、「悪ふざけ一歩手前で楽しく小説を書く」というのがあるとぼくは思っているんだけど、その感じがビンビンに伝わってくる。参加者があまり肩肘を張っていないのが非常によい。

たぶん、屍者といういくらでも風呂敷を広げられる設定が、その楽しさに貢献しているんだろう。伊藤計劃の残した未完の遺作を元に、悪ふざけ一歩手前の死体遊びが繰り広げられるというのは、まあ悪い冗談のようにも聞こえるが、面白いんだからしょうがない。


以下、特に良かったものについての個別の感想。

藤井太洋「従卒トム」は、屍者という技術があったら黒人の地位ははまあこうなっているだろうという納得感と、随所に見られるアルゴリズム的な発想に、藤井太洋らしさが感じられる作品。映画版「屍者の帝国」のようなエモさもあり、各モチーフのつなげ方もうまく、「公正的戦闘規範」よりもだいぶよかった。終盤の話の展開がジャパニーズサムライのスゴウデケンジュツ頼りなのが若干マイナスポイントか。

高野史緒「小ねずみと童貞と復活した女」は、ドストの某作とキイスの某作の組み合わせを発見した時点で勝ちでしょう。ロゴージンの語りはいい意味でラノベっぽくてよい。終盤の展開は悪い意味でラノベっぽい粗さだったが、それを差し引いても大満足。

宮部みゆき「海神の裔」もよかった。屍者帝の設定を小道具に使ったある種の人情話にすぎないといえばそうなんだけど、ストレートな筆致やお婆さんの語りとうまいことマッチしており、おとぎ話のような魅力がある。

屍者の帝国 (河出文庫)

屍者の帝国 (河出文庫)