未完成の小説の続きをAIで執筆した衝撃の長編小説集/木下古栗『サピエンス前戯』

サピエンス前戯 長編小説集

サピエンス前戯 長編小説集

  • 作者:木下古栗
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: 単行本
『文藝』に「新連載」と称して第1回のみが掲載されていた3作に、それぞれ「その後の展開」を加筆した小説集。それを加筆するにあたって、表題作「サピエンス前戯」の中で「ある程度の長さ、途中まで書いた未完成の小説を材料として与えると、その続きを自動生成してくれる、そんなAI」(p.148)を出すことにより、本書の収録作の「その後の展開」はすべてAIによって執筆されたものだという衝撃の事実(ホラ)を示唆する。それによって、地の文がすべて体言止めとなっている、だいぶ簡素(手抜き?)な文章を正当化するという面の皮の厚さに笑ってしまった。

ただそうなったときに気になるのは「オナニーサンダーバード藤沢」か。この小説は村上春樹のパロディ(らしい。ぼくは春樹の小説をほとんど読んだことがないのでわからないが確かにそれっぽいような)のため、「その後の展開」でも地の文は一応普通の文章となっている。なんとなく「その後の展開」の文章のほうが雑な文章のような気はするけれども、明らかな差ではないように思う。「人間が書くのとは逆に、特に一人称小説の生成が難しいらしい。というのもAIには内面や主観性が理解できないせいか、一人称でも三人称のように、他人事のように語ってしまいがちだとかで」(p.149)と予防線を張るのであれば、もうちょっと差を明確にしてほしかったかも。

「酷暑不刊行会」はちょっと文学と下ネタダジャレゴリ押しという感じがして、全体的にはあまり感心しない。ただ、真面目パートと下ネタパートの行ったり来たりは、今までの古栗にはなかった感じでわりと新鮮。あと、古栗の下ネタ小説についてのメタ小説っぽくも読めるのかなーとは思った。