膨大なデータで読む芥川賞の歴史/川口則弘『芥川賞物語』

芥川賞物語 (文春文庫)

芥川賞物語 (文春文庫)

芥川賞受賞作・候補作の簡単な紹介からゴシップまで、芥川賞の歴史が手ごろな形でまとまっている。特に石原慎太郎以前の話は、芥川賞の話題としてもり取り上げられることが少なく、文学史としてもあまり触れられない部分だと思うので、けっこう勉強になった。候補作だとか他のメディアでの芥川賞の扱いとか、周辺領域に触れているのも大事。

また、著者の川口は「芥川賞のすべて・のようなもの」の管理者でもあるので、この本は膨大な芥川賞のデータを元にした、芥川賞に対する評論ともいえる。芥川賞通俗的な毀誉褒貶に対して、やや統計的な視点から反論しているのが特に好印象だった。

あと気になるのは、良くも悪くも川口が芥川賞受賞作・候補作に対して、あまり興味がなさそうなこと。あとがきでも、芥川賞よりも直木賞に強く興味があると述べており、各作品の評価に川口自身の意見があまり出てこない。悪くいえば他人の評価の寄せ集めだが、良くいえば中立的だと思う。