プロパガンダ装置としての役割に焦点を当てた「山月記」研究/佐野幹『「山月記」はなぜ国民教材となったのか』

「山月記」はなぜ国民教材となったのか

「山月記」はなぜ国民教材となったのか

  • 作者:佐野 幹
  • 発売日: 2013/07/31
  • メディア: 単行本
おもしろい。「山月記」という短編が、様々な人間の思惑によって、「国民教材」に相応しい小説として教科書に掲載され続け、読まれ続けてきたというのが、丹念な調査によって明らかにされている。国語の教科書の、一種のプロパガンダ装置としての側面がよくわかる。

ただまあ国語の教科書がプロパガンダ装置だというのは、あくまでも「側面」だ、というのは留意すべきかな。「山月記」よりも教科書採択率の高い「羅生門」や「こころ」は、プロパガンダ目的で教科書に採用されてきたとは到底思えないし。とはいえ、そういう懐疑的な視点を持つことは大事。


山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

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