10年代の面白い日本SFを網羅するアンソロジー/大森望、伴名練編『2010年代SF傑作選(1・2)』

2010年代SF傑作選1 (ハヤカワ文庫JA)

2010年代SF傑作選1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 文庫
2010年代SF傑作選2 (ハヤカワ文庫JA)

2010年代SF傑作選2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 文庫
10年代の面白い日本SFを網羅しようという気概が感じられる。また、流石に傑作選を謳うだけあり、ある程度制約があるであろう中でそれなりに面白いものが揃っている。既読の作品でも、円城塔「文字渦」飛浩隆「海の指」長谷敏司「allo,toi,toi」酉島伝法「環刑錮」といった、ぼくも好きな短編が数多く収録されている。

特に感心したのは藤井太洋「従卒トム」の収録。藤井は現実の延長線上を描いたSFに定評がある作家で、普通に藤井の代表短編を選ばせたら「公正的戦闘規範」とかになるであろうところを、決して藤井太洋を代表するとは言い難い「従卒トム」を選んでいるというのは、小説的な面白さを優先したといったところか。賛否両論あるとは思うがぼくはこの方針のほうが好き。藤井に限らず、全体的にジャンルSF色がやや薄いのも、SFっぽさよりも面白さを優先しているのだろう。





以下、初読で印象に残った作品の感想。


1巻では、田中啓文「怪獣惑星キンゴジ」はかなり歪な特殊設定ミステリー。背景設定の詰めがやや甘かったり、倫理観の欠片もない話だったりと若干嫌なところがあるが、とはいえミステリーとしてそこそこ面白い。しかしこれ連作短編ってマジかよ。仁木稔「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」は、ほとんど現在のアメリカという感じで、これを2014年に書いたというのはすごいなあ。SF的には可もなく不可もなくではあるんだけど、圧倒的な暴力描写の迫力を読んでしまうと褒めざるを得ない。津原泰水テルミン嬢」は(いい意味で)ザ・雰囲気小説。仁木と同じくSF的には特筆するべきところはないような気はするが、悲痛で退廃的な雰囲気がとてもいい。

2巻では、柴田勝家雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、フェイクドキュメンタリーっぽい文体が良く、柴田の専門の民俗学的な学識が最大限に活きている。小田雅久仁「11階」は、ふわっとした幻想文学からひとっ飛びに生々しい物語へと変貌する不思議な作品。