たいへんしんどいADHDアイドルオタク小説/宇佐見りん『推し、燃ゆ』

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

たいへんしんどい小説である。主人公はおそらくADHDであり、そのためかかなり破滅的な人生を送っている。特に人間関係はかなりボロボロで、友達っぽい友達は1人ぐらい(しかもオタ友)しかおらず、家族との仲もかなり険悪だ。

そんな彼女の救いとなっているのは「推し」の存在だ。もちろん、アイドルに癒やされたりとかいった部分もあるのだろうけど、それより重要そうなのは、アイドルを推す中で得たネット上の人間関係だ。どうも彼女はそのクラスタの中ではそこそこ有名なようで、ブログだとかSNSだとかでオタ活を通じてコミュニケーションをとっている。「推しは背骨だ」という印象的なフレーズは、彼女が精神的にアイドルに支えられているというだけでなく、彼女の数少ない他人とのコミュニケーションの基盤になっているということでもある。

だからこそ、「推し」がアイドルをやめることは彼女を孤独にする。それに示し合わせたかのように、彼女は学校を退学し、実家を追い出され、バイトをクビになる。高校生から家族と学校とバイトとネットを取り上げたら、そりゃあほぼ完全な孤独になるだろう。ぼくは小説を読んでいるときにあまり感情移入をしない方だと思うんだけど、これに関してはかなり感情移入してしまい、かなり暗い気分になってしまった。

というわけで、よい小説です。今どきののアイドルオタクの生態を描いた風俗小説という側面もあるんだけど、それがわりとうまくADHD小説に貢献している。ただし『コンビニ人間』などとは違い、かなり救いのない小説なので、精神衛生には気をつけること。


コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)