「孤城」というもうひとつの学校について/辻村深月『かがみの孤城』

この小説に出てくる「孤城」は、一見するとファンタジーな空間ではあるが、フリースクールと同様、明らかに学校に馴染めなかった人向けの学校の代替物となっている。この小説に登場する人物は、みんなうまく学校に馴染めないが、孤城での1年間の交流を通して成長していく。主人公のこころは、最終的にはトラウマを克服し、学校に通うようになる。そんな美しい物語だ。

だからこそ、ぼくはこの小説にちょっとした違和感を覚えた。学校の代替物にすら行けない子供はどうすればいいのだろう、と。それこそ孤城に行く前のこころのように、フリースクールに行くのすら拒否するような子供は? もちろん難癖に近い批判ではあるんだけれども、まさにこころのような子供が現実では救われないというのは、わりと深刻な矛盾のように感じる。

とはいえ、まあ、難癖です。そういう違和感はありつつも、それなりに楽しめた。リーダビリティは格段に高いので、文庫2冊でもサクサク読める。また、ミステリー畑の辻村らしく謎解きめいた仕掛けもあり、エンタメ小説的な面白さもある。