伴名練編『日本SFの臨界点 新城カズマ』解説に『魔界探偵 冥王星O』についての記述がない

伴名練編のアンソロジーシリーズ『日本SFの臨界点』シリーズは、単純なアンソロジーとしての面白さもさることながら、とんでもなく分厚い解説にも定評がある。例えば新城カズマ編であれば、巻末解説はなんと60ページ。こんなに解説が分厚い本なんて、他には中編100ページぐらいの古典を解説で水増しするような場面でしか見たことない。もちろん『日本SFの臨界点』シリーズはどれも300~400ページぐらいはあるため、そんなくだらない水増しとかではない。大変すばらしいと思います。


……とは思うんだが、先日『日本SFの臨界点 新城カズマ』を読んでいたところ、なんとあの伴名練の解説に漏れがあることを発見してしまった。しかも、短編1本とかではなく、ガッツリ1冊についての記述がまるまる抜けているのである。そんな、あの伴名練ですら見落とした、新城カズマの本とは……!


『魔界探偵 冥王星O ジャンクションのJ』だ。


一応説明をしておくと、『魔界探偵 冥王星O』シリーズは、舞城王太郎を含む複数人の作家が、舞城の小説に登場する架空の作家・越前魔太郎ペンネームで書いた小説シリーズである。詳しくはWikipediaを参照のこと。その中で、新城カズマは『ジャンクションのJ』を担当している(厳密にいうと、誰が書いたかは明らかにされていないが、まあレーベル的にも作風的にもこれだろうというのがファンの間での共通認識だ)。


ではなぜ伴名練の解説には、『魔界探偵 冥王星O ジャンクションのJ』についての記述がないのか? 理由を思いつくままに挙げてみると、①厳密には新城カズマの担当作が明らかにされていないから、②イレギュラーな作品だから、③講談社・角川からNGが出た、④新城カズマからNGが出た、⑤新城カズマか伴名練が講談社・角川に忖度した、⑥単に伴名練が見落としていた、あたりだろうか。

①は、『魔界探偵 冥王星O ジャンクションのJ』を新城カズマ作であると断定しない理由にはなるものの、一言も触れない理由にはならない(『魔界探偵 冥王星O』シリーズにも参加している、ぐらいは書くべきだろう)。②も、それだけの理由で一切触れないということはなさそう。③④は、10年も前の企画に今さらNGを出すというのはちょっとなさそう。あるいは新城カズマが『ジャンクションのJ』を黒歴史扱いしている可能性もあるかもしれないが、10年前に読んだときの記憶だと、ゴリゴリ気合の入ったわりと面白いメタフィクションだったので、個人的にはそうであってほしくはないかなあ。⑤はそこそこありそうだが、伴名練はエッセイなどでも比較的誠実な文章を書くイメージなので、ちょっとイメージにはそぐわない。⑥は詳しい解説に定評のある伴名練なので、Wikipediaにすら書いてある情報を見落とすというのはなさそうだが、案外これが真相だったりするのかも。結局よくわからん。


『魔界探偵 冥王星O ジャンクションのJ』は、前述の通りだいぶイレギュラーな小説ではあるものの、ちょっと変な形でシェアード・ワールド企画をやっており、かつその中でも異彩を放つゴリゴリのメタフィクションであるため、独特のライトノベル哲学を持っている新城カズマを考察する上でそれなりに重要ではあるだろう。なので、『日本SFの臨界点』などを読んで新城カズマに興味を持った人は、余裕があれば『魔界探偵 冥王星O』にも触れてほしいなあとは思う。まあ7冊もあるシリーズなのでハードルは高いが……。



2021/11/17追記

新城カズマご本人から訂正をいただきました。なんと、実は(ほぼ)名義貸しだったのこと。であれば確かに積極的に解説に載せない理由になると思う。伴名練に対して微妙に悪口めいたことを書いてしまってたいへん申し訳ない。