本格的で独創的な生物学SFを書き続けた石黒達昌の傑作選/石黒達昌『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』

伴名練が編集した、石黒達昌の傑作選。本人がファンブログを運営するほどのファンでもあるためか、セレクトには概ね納得がいく。強いていえば個人的には、蜂につきまとわれた男を石黒っぽい文体で書いたらなぜか不条理コメディっぽくなった「カミラ蜂との七十三日」はほしかったとは思うが、他の作品とのテイストの違いを考えるとなくてもよかったかも。

再読した作品では「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに」と「希望ホヤ」が圧倒的に良い。どちらも生物学SFであると同時に、喪失の悲しみに満ち溢れたドラマでもある。「雪女」も似たようなテーマではあるが、雪女という魅惑的なモチーフがあるためそこそこ面白い。あと、「王様はどのようにして不幸になっていったのか?」は伴名練は寓話的だと解説しているが、なんかこれブラックホールあるいは時間SFっぽい記述ない? なんか変な読み方できるのかも。あまり1本筋の通った解釈は見つけられなかったが……。

初読作品だと、「ALICE」が強烈な印象を残す怪作。伴名練が解説するように人格とアイデンティティみたいな話も良いが、俗っぽいスプラッターホラー色があるのが他の石黒作品との違いで、そこにインスタントな面白さがある。