読んだ本(2022/1)

1月に読んだ本のまとめ。

伴名練「かみ☆ふぁみ! 〜彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件〜」(大森望編『NOVA 10 書き下ろし日本SFコレクション』河出文庫、2013年)

ラプラスの悪魔的な全知能力を持つ先輩とのラブコメラプラスの悪魔が2体いると、お互いがお互いをシミュレートして意思疎通が取れるというのは円城塔みがあるんだけど、ライトノベルパスティーシュ文体によって読み味は全然違う。ドライブ感たっぷりで書ききった怪作でもあり、読後感爽やかな快作でもあるのは、それまで暗い話ばっか書いてきた伴名練の転換点のようにも見え、「なめらかな世界と、その敵」などにつながる、意外と重要な作品なのかもしれない。

なんですが、ライトノベル文体に引きずられるような形でちょこちょこフェミニズム的にアレなところがあるのはよろしくない。個人的には、(飯田一史が指摘していたような)ラノベにおける女性蔑視は、単に作者側の意識の低さの問題で、ラノベフェミニズムは両立不可能なものではないと思いたいのだけれども……。

宮部みゆき『チヨ子』(光文社文庫、2011年)

うーん全部可もなく不可もなくって感じ。

川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(河出書房新社、2021年)

ゲイ文学としてけっこういい感じだが……。詳細はここ

舞城王太郎『畏れ入谷の彼女の柘榴』(講談社、2021年)

ほんとに最近の舞城ってグズグズだなあ。「id:INVADED」がけっこう面白かったので、才能が枯れてしまった訳ではないと思いたいが……。

アガサ・クリスティーそして誰もいなくなった』(クリスティー文庫、2010年)

義務感で読んだ。まあ単純にミステリーとして先駆者という言い訳を使わないと(主に動機面で)苦しいのに加えて、見立てがやや雑に感じた。

伏見つかさエロマンガ先生(1-3)』(電撃文庫、2013-2014年)

『俺妹』のおかげで読書という趣味に目覚めた人間としては、一応読まなきゃなあとほ思っていたので読んでみたんですが、うーむ。信頼できない語り手ラノベ主人公というアイデンティティは健在な一方で、ヒット作を出したラノベ作家にありがちな安易なラノベ作家モノ・『俺妹』よりだいぶ増えたセクハラ・『俺妹』よりもだいぶ安易なハーレム展開・着地点が1巻の時点である程度見えている、といった諸々の欠点があるため、まあこんなもんかなあという感じ。『俺妹』もだいぶ記憶の中で美化されているのかなあとまで思ってしまう。

ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫、2011年)

すごくよかった。主に差別の話と反緊縮の話で、とても読みやすく導入に最適。反緊縮の話はブレイディの他の著作よりも若干薄いので、そこはまあ他の著作に求めろということでしょうか。

貴志祐介『クリムゾンの迷宮』(角川ホラー文庫、2002年)

くだらねえー。『黒い家』や『悪の教典』みたいなヒリヒリする殺人鬼描写も、今作では薄い。

羽田圭介『Phantom』(文藝春秋、2021年)

なかなか読めない長期投資小説。詳細はここ

犬塚惇平異世界食堂(1)』(ヒーロー文庫、2015年)

異世界」から現実世界につながっている「食堂」っていうアイデアはちょっとおもしろいかも。まあそれだけ。

高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』(講談社文芸文庫、1997年)

あまり小説らしい小説ではない。印象的なフレーズが多く、エモをインスタントに摂取できるような感じがする。

ケブリン・ヘニー編『プログラマが知るべき97のこと』(オライリージャパン、2010年)

まあぱらぱらと読むとよいのではないでしょうか。

木下古栗「迸る書記」(河出書房新社編集部編『池澤夏樹、文学全集を編む』河出書房新社、2017年9月)

カフカ『失踪者』のレビュー。たしか古栗は「木下古栗のカルチャー×食」で池内紀カフカをdisってたと記憶しているんだけどなあ。まあ木下古栗も池澤夏樹の前では日和っちゃうよねえうふふふふ。

品田遊『名称未設定ファイル』(キノブックス、2017年)

掌編はめちゃくちゃおもしろいが、短編だと星新一のできそこないみたいで微妙。このクオリティの掌編50本ぐらいまとめればめちゃくちゃ良い本になると思うんだけど、まあ難しいんだろうなあ。

樋口恭介編『異常論文』(ハヤカワ文庫JA、2021年)

若手からベテランまで、イキのいい作家が集まっている。詳細はここ

円城塔「ぞなもし狩り」(『大分合同新聞』2016年4月30日)

www.aozora.gr.jp
こういう文化の観光資源化企画に対して、すさまじくヒネた、それでいてギャグセンスの高い小説を書いてくるのが、いかにも円城塔らしい。

澤西祐典「湯けむり」(『大分合同新聞』2016年4月30日)

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普通に嫌な話で笑った。

福永信「グローバルタワーにて」(『大分合同新聞』2016年4月30日)

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こちらはメタフィクション系。まあ、地域振興系文学という題材に対する三者三葉の捻り方を読むことができたというのはいい体験かなあ。

相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社、2021年)

なーんで一発ネタの続編書くかねえ。単なる短編集としてもたいして驚きもないし。

木下古栗「股間の大転換」(『文學界』2014年11月号)

みんなが股間を丸出しにしているという世界なんだけど、現実世界と変わらないところを平然と普通に書けるのはすごい。ただ基本的にはそこまで面白くなく、純文学としてもゆるいSFとしても退屈。

木下古栗「二度寝男」(『文學界』2011年5月号)

エッセイだけど若干小説っぽい。が、小説だろうがエッセイだろうが大した話ではないのでどうでもいい。

木下古栗「ワタミカフカ」(『新潮』2012年6月号)

もしかすると最重要エッセイかも。渡邉美樹のツイートが壮大に首尾一貫してないところがカフカと通じており、それは渡邉美樹のみならず現実自体がカフカ的になってきているとのこと。そして、それを乗り越えるものとして持ち出されるのがなんと茂木健一郎。木下古栗の創作姿勢を考察する上でこのエッセイは外せないと思う。

木下古栗「ウェブ記事と本」(『群像』2012年11月号)

企画「私のベスト3」で、ウェブ記事を紹介している。あまり「と本」感がない。

ARuFa『超 暇つぶし図鑑』(宝島社、2017年)

ブログの書籍化ですが、見開きでテンポ良く読めてきっちり笑わせてくれる。すごく面白い。本当の意味で頭使わずに最初から最後まで楽しめる本って珍しい。