早送りで観た映画について堂々と語る方法/稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』

全体的には良かった。一部俗流若者論を素朴に引用しちゃってる向きもあり、それはどうなんだと思う部分もあったものの、結論としては倍速視聴などを字幕や吹き替えや映画配信サービスの延長線上に位置づけるという、穏当かつ妥当なところに落ち着いている。当事者へのインタビューなども豊富で生の声を聞けるのもよい。

付け足すとすれば、これらの議論をする際にはピエール・バイヤールの読書論を参照するとかなりすっきりすると思う。バイヤールは『読んでいない本について堂々と語る方法』の中で、読書という行為は読んだ/読まないのデジタルな行為ではなく、100読んだとか80読んだとか1読んだみたいなアナログな行為であるという見方を提示している。これは、映画を早送りで観るという行為に対しても適応できると思う。等速であれば映画を観たことになるが早送りだと観たことにならないと考えるよりも、普通に観れば60観れるところを早送りだと40しか観れない、という方が無理のない意見だと思う。そういう捉え方であれば、早送り視聴などをしている人も異議はないんじゃないかな。