核兵器だの近代文明批判だのはけっこうマジで言っている部分もあるとは思うんだけど、その一方でそういう主張が大杉一家やさらに胡散臭い万年助教授とかによって語られることで、いい塩梅に相対化されている。絶妙なバランスで成立しているバカSF(全部妄想でしたーをSFといえるかは微妙だが)です。また、そういう軽いノリのおかげでかなり読みやすくもあるのもいいところ。
しかしWikipediaとかを見てみると、まー文学者サマの多くはこの小説を大真面目に受け取っていますねえ。解説も書いている奥野健男なんて、重一郎と万年助教授の論争をドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の大審問官のシーンになぞらえているけど、いやー生真面目すぎるでしょう。三島は天才なのであのシーンはドストエフスキーに匹敵するというのはわからんでもないけど、その論争をしているのが埼玉のわけわかんねーおっさんと万年助教授だという時点でだいぶ胡散臭いものだし、床屋と銀行員の気の抜けたちゃちゃ入れなんかもあるというのに。もちろん、そういう一見馬鹿げた滑稽なシーンの中に一抹の真理が含まれているというのはあるけれども、一から十までマジで受け止めるのは違うと思うんだけどなあ。