これがゲーム的リアリズムですか/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 最終章」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 最終章 [DVD]

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 なんか見たことあるなーと思ったら、指を切る試練とか人を殺す試練とかがPS3のゲーム「HEAVY RAIN 心の軋むとき」に似てる。そして気づいたんだけど、これってゲーム的リアリズムなんじゃね?

ゲーム的リアリズム」というのは東浩紀が提唱した概念で、現代においてはループや選択肢といったゲーム的な手法がリアリティを持つということ。東はこの概念をもとに、桜坂洋『All You Need Is Kill』舞城王太郎『九十九十九』などを分析している。

が、ここではその「ゲーム的な手法」というのをもう少し広く考えてみよう。ゲームではよく、なんでやる必要があるのかよくわからないミッションを課され、それをこなすとなぜか報酬がもらえる。だからぼくたちはゲームで、報酬をもらうことを目的によくわからないミッションをこなし、よくわからないまま報酬をもらう。これも、「ゲーム的な手法」といえなくもないだろう。

これってまさに「最終章」でやっていることそのままですよねえ。なんでパンツを食べたり指を切ったり人を殺したりする必要があるのかはまったくわからないんだけど、田代(白石晃士)は工藤(大迫茂生)や市川(久保山智夏)を助けるためにそういうミッションをこなし、実際に工藤や市川は助かる。

ところで、こういう「なんでやる必要があるのかよくわからないミッション」がたくさんあるゲームは普通、「お使いゲー」と揶揄されている。そう考えると、この映画も「お使い映画」といえるのではないか。だからこそ、この映画はあまり面白くないのだ。

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低予算ホラーをここまで昇華させるとは!/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ!  史上最恐の劇場版 [DVD]

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 超壮大な話になっていて驚き。最初は低予算ホラーだったのに、そこに精神異常・戦争・暴力・タイムスリップ・親子の運命・怪獣など、数え切れないほどの要素がこれでもかというぐらい詰め込まれており、なおかつそれがたった80分にまとめられている。シリーズモノとはいえ、この濃厚さはものすごく貴重。さらに恐ろしいことにこの作品では、過去の「コワすぎ!」シリーズ に出てきた伏線を一気に回収しにかかる(一部回収されない伏線はあるんだけれど)。その綿密に練られたストーリー展開に、珍しく涙してしまった。

 ところで、悪者サイドに電力会社(おそらく東京電力)が出てくるの、3.11以後だからですよねえ。そう思ってみてみると、科学者斎藤(金子二郎)の「想定内」連呼は御用学者のようにも見える。まあ政治性を気にする人は気になるかもね。ぼくは好きです。

クオリティは並だけどめっちゃ笑える/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】」

 

 単純な作品の出来という意味では、「コワすぎ!」シリーズの中では平凡な部類に入ると思う。「人喰い河童伝説」のようなド直球さも、「真相!トイレの花子さん」のようなめちゃめちゃな面白さもなく、良く言えば無難、悪くいえば冒険していない感じがある。もちろん「コワすぎ!」シリーズのノリ自体は健在なのだけれど……。

しかしこの作品のいいところは、なぜか笑っちゃうような「シリアスな笑い」がたくさんあること(いや「シリアスな笑い」はこれまでにもあったのだけど、「真説・四谷怪談 お岩の呪い」ではその傾向が顕著なように思う)。たとえば工藤(大迫茂生)がいきなりピッキングをはじめるだとか、浄霊師の道玄(宇賀神明宏)を工藤がぶん殴るだとか、なぜかいちいち面白い。なので、「コワすぎ!」シリーズの中で一番声を上げて笑った回数が多かった。白石晃士がこれらの面白さを狙ってやっているのかどうかはよくわからないが、とにかく笑っちゃうんだからしかたない。

あと、今までの作品と違って、フィクション性を主題にしているのも興味深い。他の「コワすぎ!」シリーズでは一貫して、現実に由来のあるもの(か、由来の不明なもの)が怪奇として登場したのだけど、今回の場合は、お岩さんが全くの想像の産物であることが語られる。どこがどうつながってるのかはよくわからないけど、なんにせよちょっと気になる。

 

どうでもいいんだけど、霊界のシーンのCGのクオリティ明らかに向上してません? やはり劇場版序章ということで、予算がいっぱいあったの……?

廃校と時空を駆け抜ける、白石晃士最高傑作!/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04【真相!トイレの花子さん】」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04 真相!トイレの花子さん [DVD]

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 いやーこれは最高傑作でしょう。「オカルト」と同じくらい好き。

基本的な話のパターンは3作目「人喰い河童伝説」と似ているけれど、構成一つ一つが圧倒的に優れている。廃校を舞台に、時間を超え空間を超えて延々と疾走するドライブ感もすさまじい。強いて欠点を上げるのであれば、「トイレの花子さん」という題材がそこまで活きているわけではないところか(とはいっても、白石晃士の映画ってそんなのばっかりだしねー)。

そして、その面白さを最大限に増幅させているのが、中盤からラストまでずっと続く、長回し風映像。これはもう、白石晃士の手腕でしょう。時間をぽんぽん超えるところはともかく、階段のループなど、どこで映像を繋いでるのかよくわからなかった箇所も結構ある。この映像の良さのお陰で、中盤からはずっと画面に惹きつけられっぱなし。役者もストーリーも構成も映像技術もすべてが完成された、白石晃士の最高傑作です。

これぞ正統派!(?) 「コワすぎ!」の真骨頂はここから/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-03【人喰い河童伝説】」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03 人喰い河童伝説 [DVD]

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「コワすぎ!」シリーズ1作目の「口裂け女捕獲作戦」と2作目の「震える幽霊」は、もちろん見どころのある映画ではあるものの、その一方でシリーズの初期作特有の、シリーズ自体の方向性の定まらなさがあったように感じた。なので、いかにも「コワすぎ!」っぽい話が展開されるのは、3作目の「人喰い河童伝説」からだとぼくは思う。

最初はあまり面白くないホラー系のモニュメンタリーなのが、工藤(大迫茂生)の強引さによって幽霊との対決という流れになり、そこに相談者の真剣さやうさんくさい霊媒師も加わり、最終的には工藤が暴力で幽霊を退治するものの、最後はバッドエンド、という「コワすぎ!」の王道パターンが、きれいに確立されている。そしてぼくは、このパターンはオーソドックスなプロットを辿った結果なのだと思う。そういう優等生的だがありがちなプロットに、白石晃士特有のミーム(幽霊、モニュメンタリー、暴力、霊媒師etc...)をこれでもかとぶち込むと、正統派な「コワすぎ!」、というなんだか自家撞着したような作品ができあがるのだ(ほめてます)。

あと気づいたのは、「口裂け女捕獲作戦」や「震える幽霊」では弱かった、「少年漫画的な熱さ」が、この「人喰い河童伝説」には存在する、ということ。そしてこの少年漫画的な熱さは、その後の「コワすぎ!」シリーズにも引き継がれている。この熱さも「コワすぎ!」シリーズの魅力の一つかもしれない。

「震える幽霊」はどこいったの?/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-02【震える幽霊】」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-02 震える幽霊 [DVD]

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 なんだこれー。最初の30分はあまりおもしろくない。「震える幽霊」っていうのが「コワすぎ!」シリーズの他の作品で扱っている怪奇に比べてもピンとこないので退屈だと思う。ところが、相談者の一人である夕子(はるうらら)が出たあたりから、話は変な方向に進んでいく。「震える幽霊」はほったらかしで、夕子の電波女っぷりがどんどん暴かれていって、最終的に投げっぱなしエンド。この潔さはむしろ心地良いぐらい。

こういう、突然わけのわからない方向に話をすすめるのは白石晃士の他の作品でもよくあることで、「オカルト」で最初は心霊現象を追っていたはずが、底辺労働者のドキュメンタリーを経ていつの間にか江野くんと白石くんの友情物語になっていたりだとか、「カルト」で途中まではよくある白石晃士の作品だったのが、いきなり俺TUEEEEモノのラノベみたいになるだとか、「貞子vs伽椰子」で途中までは正統派ホラーだったのがいきなり幽霊大バトルになっちゃうのとかを思い出した。

とはいえ、「オカルト」「カルト」「貞子vs伽椰子」などの予想外っぷり(いや、「貞子vs伽椰子」はプロモーションが露骨だったので実際のところは予想外ではなかったのだけど)と比べてしまうと、ちょっと見劣りしてしまうというのはある。というのも、「オカルト」「カルト」「貞子vs伽椰子」などでは最初の方向性と転換後の方向性の違いが露骨(だからこそ面白い)のに対し、「震える幽霊」では最初の「幽霊を探す」という方向性と方向転換後の「電波女の謎」という方向性が、そんなに大きく離れているとは思えないからだ。だから、話のトーンは一緒なのに方向性が変わっているということで、ちぐはぐな印象を受けるということすらあるかもしれない。

 

でもまあ面白いしいいんじゃないんでしょうか。工藤(大迫茂生)の暴走っぷりやクズ要素もこのあたりから酷くなってくるし。

薄味/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦 [DVD]

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 流石に1作目からめちゃくちゃぶっ飛んでるというわけではないものの、それでも口裂け女を捕獲するという後半のノリノリっぷりは、やはり白石晃士といったところ。工藤(大迫茂生)の乱暴さも「口裂け女捕獲作戦」では結構抑えられており、暴力が出てくるのが局所局所なので、逆にサイコっぽくも見えてこれはこれでアリ。

総じて、面白いか面白くないかでいえば面白いんだけど、基本的に地味だと思う。あと、後の作品に向けての伏線張りは、やや唐突で雑なように感じた。