たいして面白くはないが、生成過程は気になる/フリー・グーグルトン『茹で甲斐』

木下古栗がフリー・グーグルトン名義で出版した電子書籍の2冊め。こちらはAIを利用して書いた掌編小説集で、曰く

文章はすべて「Perplexity」と「Deepl」を使用して生成され、その後、人間によって手が加えられたものです。各話の粗筋や設定は人間が考え、それをAIが英語で文章化し、機械翻訳で和訳しました。そして、人間が仕上げに味付け程度の推敲をしました。

とのこと。そういえば「サピエンス前戯」もAIに小説を書かせる話だったなあ、と思いつつ、古栗はわりと真剣にAIによる創作の可能性を考えているということがわかる。


で、肝心の出来なんですが、まあたいして面白くはないです。まず、当たり前だけど描写自体の魅力が皆無。木下古栗の魅力の一つは、異様な状況を非常に生々しく描写するところであり(「犯罪捜査」「股間の大転換」などが傑出している)、そういう描写がないと異様な状況という面白さも半減してしまう。

そしてそれよりもっと問題なのが、古栗の作ったという「粗筋や設定」がそこまで面白いと思えないんだよねー。全体的に「能力の傑出した人間がなぜかパスタを茹でる」という話ばっかで、同じ味のパスタを延々と食わされるような退屈さがある。なぜかやたらと大谷翔平に執着しているところとかは面白くなくもないけど、それだけかなー。まあ根本的に「面白い掌編小説」なんて存在しない、みたいな話でもあるのかもしれないけど。


というわけで本書の出来自体はかなり不満なんですが、創作過程はけっこう気になる。古栗がどのような粗筋や設定を入力し、そして出力された文章にどのように推敲をしたのか、をセットで読めれば、AIによる創作過程の紹介ということで、もうちょっと興味深くなったと思う。逆にいえば、そういうのが載ってないせいで本当にどーでもいい本になっちゃったんだなとも思う。

というわけでグーグルトン先生、『茹で甲斐 完全版』の出版をお待ちしてます。