SF

『虐殺器官』を水で薄めた感じ/佐藤究『Ank:a mirroring ape』

Ank : a mirroring ape (講談社文庫)作者:佐藤究講談社Amazonまあなんか、伊藤計劃『虐殺器官』を水で薄めて水増しした感じですな。根本的なアイデアがちょっと似ているのでどうしても連想してしまう。霊長類についてのディテールが詳しく…

どちらかというとフェミニズムよりも黒人文学の色が強い/オクテイヴィア・E・バトラー『血を分けた子ども』

血を分けた子ども作者:オクテイヴィア・E・バトラー河出書房新社Amazon当たり外れが激しい印象。退屈だったり異様に読みにくい短編もちょこちょこある一方で、「血を分けた子ども」「夕方と、朝と、夜と」「恩赦」あたりの最低限の説明でクールに決める感じ…

女性であることが活かされているか?/奥浩哉、イイヅカケイタ『GANTZ:G』

GANTZ:G 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)作者:奥浩哉,イイヅカケイタ集英社Amazonうーん登場キャラクターの多くが女性であることが活かされているわけではないかな。大半が先輩兄ちゃんの言いなりだったし。『GANTZ』本編でも、数は少ないとはいえ女性…

ニール・ゲイマン「本の裏表紙に載っている生命体が細菌である可能性」 in 2010年イグノーベル賞の24/7レクチャー

improbable.com講師: ニール・ゲイマン(作家、ヒューゴー賞・ネビュラ賞・カーネギー賞の受賞者) 24秒で*1:本の裏表紙に載っている生命体が作家なのか細菌なのか不確かなときは、人類の人口を60億人として、そのうち半分以下が出版経験のある作家だと仮定…

こんなばかSFにまじになっちゃってどうするの/三島由紀夫『美しい星』

美しい星 (新潮文庫)作者:由紀夫, 三島新潮社Amazonおもしろーい。信頼できない語り手というか、信頼できない作者というか。自分は宇宙人だと断言する胡散臭い家族がまあまあでかい騒動を起こすドタバタコメディ寄りの話として読むのが素直だと思う。暁子を…

加藤シゲアキにしか書けないゲデモノ小説/加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』

チュベローズで待ってる AGE22(新潮文庫)作者:加藤シゲアキ新潮社Amazonチュベローズで待ってる AGE32(新潮文庫)作者:加藤シゲアキ新潮社Amazonすっげー。上巻「AGE22」はよくある就活青春小説って感じであまり面白くないんだが、下巻「AGE32」に入って…

アクションまあまあ探索弱め/「メトロイド サムスリターンズ」

メトロイド サムスリターンズ|オンラインコード版任天堂Amazonいやーこれは褒められないです。各マップ単位ではそこそこ複雑なんだけど、大枠でのマップ構造が一本道なので、脳みそを使って探索するような感覚がない。ボス戦がやたらと多いのも、それ自体は…

江戸時代200年に渡る壮大な歴史改変ジェンダーSF/よしながふみ『大奥(1-19)』

大奥 1 (ジェッツコミックス)作者:よしながふみ白泉社Amazonまずなによりも、フェミニズムマンガとして立派。そして江戸時代200年にわたる壮大な歴史改変SFで、とにかくスケールが半端なく、その点において他の歴史改変SFの追随を許さない。また、日本史好き…

劉慈欣はSFっぽい世界を書くのが苦手?/劉慈欣『円』

円 劉慈欣短篇集作者:劉 慈欣早川書房Amazonたとえば「地火」。緊迫感のある現実の炭鉱をなまなましく描いており、炭鉱労働者と研究者の対比も良い。ところが、最後の最後で未来の話になった途端に一気にしょぼくなってしまう。あるいは「郷村教師」。主人公…

若手からベテランまでイキの良いSF作家をそろえたアンソロジー/樋口恭介編『異常論文』

異常論文 (ハヤカワ文庫JA)早川書房Amazon「異常論文」として小説を書くことの必然性、みたいなものはそこまで感じられず。樋口恭介のまえがきという名のアジテーションも大言壮語感が否めない。まあ論文調のSFというのはニッチなファンも多く、そういう意味…

薄味探索アドベンチャー/「メトロイド ゼロミッション」

メトロイド ゼロミッション [WiiUで遊べるゲームボーイアドバンスソフト][オンラインコード]任天堂Amazon「スーパーメトロイド」もそんなにボリュームあるゲームではなかったけど、これはより薄味だなあ。まあ初代メトロイドのリメイクなのでしょうがないっ…

選民思想は大阪風ユーモアで誤魔化せる/小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』

本にだって雄と雌があります(新潮文庫)作者:小田 雅久仁新潮社Amazon大量の蔵書を置いておくと、2冊の本から新しい本が生まれるというファンタジー。題材上どうしてもペダンティックさや読書家的な選民思想色があらわれてしまうというのは避けられず、豊崎…

本格的で独創的な生物学SFを書き続けた石黒達昌の傑作選/石黒達昌『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』

日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女 (ハヤカワ文庫JA)作者:石黒 達昌早川書房Amazon伴名練が編集した、石黒達昌の傑作選。本人がファンブログを運営するほどのファンでもあるためか、セレクトには概ね納得がいく。強いていえば個人的には、蜂につきまと…

『なめ敵』以降の伴名練を代表する大傑作/伴名練「百年文通 one hundred years distance」

コミック百合姫 2021年1月号[雑誌]作者:伴名 練,けーしん,雨水 汐,椋木 ななつ,竹嶋 えく,サブロウタ,はづき,樫風,なもり,ゆあま,阿東 里枝,未幡,田口 囁一,伊月 クロ,大沢 やよい,煮汁,志水 はつみ,SukeraSparo,黄井 ぴかち,しーめ,桜野 いつき,和泉 キリフ…

バズらせた早川の努力に感謝/劉慈欣『三体Ⅲ』

三体Ⅲ 死神永生 上作者:劉 慈欣早川書房Amazon三体Ⅲ 死神永生 下作者:劉 慈欣早川書房Amazon基本的な感想は、『Ⅱ』を読み終わったときとそこまで大きくは変わらず、まあまあおもしろかった。『Ⅲ』下巻の終盤はバカSF色がかなり強く、バカバカしさに思わず笑…

伴名練編『日本SFの臨界点 新城カズマ』解説に『魔界探偵 冥王星O』についての記述がない

日本SFの臨界点 新城カズマ 月を買った御婦人 (ハヤカワ文庫JA)作者:新城 カズマ早川書房Amazon伴名練編のアンソロジーシリーズ『日本SFの臨界点』シリーズは、単純なアンソロジーとしての面白さもさることながら、とんでもなく分厚い解説にも定評がある。…

アクションとしてはそこそこ、アドベンチャーとしては傑作/「スーパーメトロイド」

スーパーメトロイド [WiiUで遊べるスーパーファミコンソフト][オンラインコード]発売日: 2014/10/31メディア: Software Downloadアクションとしてはそこそこ、アドベンチャーとしては傑作という感じで、マップを調べてちょっとずつ範囲を広げていくのがとて…

恐竜を飼うことに重点を置いたクラフトゲー/「ARK: Survival Evolved」

【PS4】ARK: Survival Evolved発売日: 2017/10/26メディア: Video Gameオープンワールドのクラフトゲーではあるんだが、まあ本作の魅力は、恐竜を飼うことにあるでしょう。恐竜を飼うことによって、さまざまな意味で「世界が広がる」感覚は、なかなか他のゲ…

10年代の面白い日本SFを網羅するアンソロジー/大森望、伴名練編『2010年代SF傑作選(1・2)』

2010年代SF傑作選1 (ハヤカワ文庫JA)発売日: 2020/02/06メディア: 文庫2010年代SF傑作選2 (ハヤカワ文庫JA)発売日: 2020/02/06メディア: 文庫10年代の面白い日本SFを網羅しようという気概が感じられる。また、流石に傑作選を謳うだけあり、ある程度制約があ…

ジェネリックまどマギ/「結城友奈は勇者である」

第1話「乙女の真心」発売日: 2017/10/01メディア: Prime Videoまあジェネリックまどマギって感じ。神道っぽいモチーフを使って不穏さを醸し出しているところや、「マブラヴ オルタネイティヴ」みたいな敵の造形はよかった。ただ、話の展開が「まどマギ」に比…

「伝法的異世界」を気軽に(?)味わえる短編集/酉島伝法『オクトローグ』

オクトローグ 酉島伝法作品集成作者:酉島 伝法発売日: 2020/07/02メディア: Kindle版酉島伝法の短編集。短編でも、異形バリバリ造語ゴリゴリな「伝法的異世界」の魅力は遺憾なく発揮されている。『皆勤の徒』を絶賛積読中のぼくからすると、各短編が多くても…

酉島伝法「環刑錮」読書メモ

オクトローグ 酉島伝法作品集成作者:酉島 伝法発売日: 2020/07/02メディア: Kindle版酉島伝法「環刑錮」(『オクトローグ』早川書房、2020年)の読書メモ

ボリュームたっぷりで新鮮なJRPG/「ゼノブレイド」

Xenoblade Definitive Edition(ゼノブレイド ディフィニティブ エディション)-Switch発売日: 2020/05/29メディア: Video Gameなんといっても、JRPGの延長線上にありながら、快適さと新鮮さのある戦闘システムが魅力的(いや10年前のゲームなんだけどさ)。ス…

メタ要素以外に目を向けるとつらい/「One Shot」

store.steampowered.com 「ドキドキ文芸部」や「UNDERTALE」の先駆け的な作品としてそこそこおもしろい。ただまあメタ部分を除くと割と単調なADVなので、そこに目を向けてしまうとつらい。主人公のニコがとてもかわいいので、キャラクターを愛でるような楽し…

『三体』が「傑作」と評価される理由と、それでも『三体』が面白い理由

三体作者:劉 慈欣発売日: 2019/07/04メディア: Kindle版三体Ⅱ 黒暗森林(上)作者:劉 慈欣発売日: 2020/06/18メディア: Kindle版三体Ⅱ 黒暗森林(下)作者:劉 慈欣発売日: 2020/06/18メディア: Kindle版 要約 『三体』は様々な理由から「傑作」という過大評…

人類規模での壮大な足の引っ張り合い/劉慈欣『三体Ⅱ』

三体Ⅱ 黒暗森林(上)作者:劉 慈欣発売日: 2020/06/18メディア: Kindle版三体Ⅱ 黒暗森林(下)作者:劉 慈欣発売日: 2020/06/18メディア: Kindle版ハードカバー2冊使って人類規模での壮大な足の引っ張り合いをするという、あんまり読んだことのないタイプのSF…

連続殺人が許されない世界の特殊設定ミステリー/斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』

楽園とは探偵の不在なり作者:斜線堂 有紀発売日: 2020/08/20メディア: Kindle版テッド・チャン「地獄とは神の不在なり」にインスパイアを受けた特殊設定ミステリー。元ネタが偉大なのと、特殊設定が法月綸太郎的な「悩める探偵」の問題意識にうまく接続され…

伴名練の趣味全開のSFアンソロジー/伴名練編『日本SFの臨界点』

日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙 (ハヤカワ文庫JA)発売日: 2020/07/16メディア: Kindle版日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族 (ハヤカワ文庫JA)発売日: 2020/07/16メディア: Kindle版『恋愛篇』は、わりと読みやすい短編が揃っている…

未完成の小説の続きをAIで執筆した衝撃の長編小説集/木下古栗『サピエンス前戯』

サピエンス前戯 長編小説集作者:木下古栗発売日: 2020/08/26メディア: 単行本『文藝』に「新連載」と称して第1回のみが掲載されていた3作に、それぞれ「その後の展開」を加筆した小説集。それを加筆するにあたって、表題作「サピエンス前戯」の中で「ある程…

舞城ミステリーを上手いことSFに落とし込んだアニメ/「ID:INVADED」

JIGSAWED発売日: 2020/01/13メディア: Prime Videoかなり面白いっすよこれ。舞城王太郎っぽい無茶苦茶なミステリー要素を、上手いことSF設定に落とし込んでいて感心した。家族モノとしても悪くないし。「龍の歯医者」と比較するのもアレだけど、舞城王太郎ら…