加藤シゲアキにしか書けないゲデモノ小説/加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』

すっげー。上巻「AGE22」はよくある就活青春小説って感じであまり面白くないんだが、下巻「AGE32」に入ってからは恋愛小説と近未来SFとミステリーをごちゃ混ぜにした、ゲデモノ的な形で強烈に印象に残る小説になっている。それでいて、文学としてもSFとしてもミステリーとしてもそつなく器用にこなしており、非常に丁寧にゲデモノが構成されている。そして何より、「この小説の著者が加藤シゲアキである」という時点で普通の読書家はこの小説をナメてかかってしまうわけで、それを逆手に取ってフリにしてしまうというのは、まさに「加藤シゲアキにしか書けない」小説だと思う。

まあ欠点はいくらでもある。上下合わせて計500ページはちょっと長く感じた。下巻はともかく上巻はもうちょいなんとかして1冊にまとめられたんじゃないかとは思う。近未来SFとしてはひどい破綻はないものの、諸々のガジェットがあまりストーリーに貢献しておらず、それでいて独創的とも言い難い。何よりオチはちょっと強引すぎる感じが否めない。なので決して完璧な小説ではない。とはいえ、その一方でそれらの欠点がゲデモノ感に貢献している節もあるので、完全にダメとは言い切れない。そして何より、こんな奇妙な珍品の魅力は、それらの欠点を補って余りあるほどのものだと思う。