読んだ本(2021/12)
12月に読んだ本のまとめ。
中井紀夫『山の上の交響楽』(ハヤカワ文庫JA、1989年)
『日本SFの臨界点』に載っていない4作を目当てに読んだがどれも微妙。特に「電線世界」はセクハラ要素が多くてかなりイマイチ。伴名練のセレクトの信頼度が少し上がった。パク・ソルメ『もう死んでいる十二人の女たちと』(白水社、2021年)
全体的には文章がところどころヘンテコで読みにくい(翻訳の問題かもしれないが)。比較的自然な文体で書かれた表題作「もう死んでいる十二人の女たちと」と「そのとき俺が何て言ったか」がよかった。飯田一史『ライトノベル・クロニクル2010-2021』(Pヴァイン、2021年)
かなり本格的なライトノベル書評集。特に2015年あたりからの、一般的には下に見られがちなWeb小説などについて、たいへん真摯に作品に向き合う姿は、とても模範的。マーケティング的な視点からの分析も相変わらず鋭い。そして何より、「15年ぐらいまでによくあった反オタク差別ライトノベルは藁人形論法」や「『俺妹』『はがない』の失敗からジェンダー的に問題のあるハーレムエンドへ」など数々の指摘に唸らされた。極めて素晴らしいライトノベル作品批評のたたき台だと思う。伴名練「インヴェイジョン・ゲーム1978」(井上雅彦編『狩りの季節(異形コレクションLII)』光文社文庫、2011年)
伴名練にしては珍しくバカSF色が強くてよかった。また、「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」以来のバトルものでもあり、その点でも貴重。石井宏子『感動の温泉宿100』(文春新書、2018年)
全体的に、現代性・俗っぽさ・(やや)高級さを志向しており、2割ぐらいご飯の話をしていたりするので全体的には不満。ただ、ベジタリアンコースのある宿の紹介などはこの本ならではで、そこは評価できるかも。木下古栗「示し」(『文藝』2015年冬季号)
書籍化時に改作したとのことだったので一応読んでみたが、あまり大差ないかなあ。改作前はいつもの古栗で、改作後はちょっと従来の古栗像から外れてるっていうのはあるが、かといって後者が特別面白いわけでもない。文庫化時は省かれているので、結局本人もあまり納得いかなかったのだろう。木下古栗「快楽の舘」(『早稲田文学』2016年冬号)
舘ひろしが射精している姿を妄想するというまあいつも通りのエッセイなのだが、『早稲田文学』2016年冬号は雑誌の至る所に篠山紀信が撮影した大量のヌード写真が掲載されているため、その分余計に印象が薄かった。あるいは世界が木下古栗化している。木下古栗「REVIEW FILMS」(『群像』2007年8月号-2007年10月号、2008年12月号)
割と真面目な映画レビュー。1回あたり4ページほどあるため、文芸誌の紙面埋めにしては長め。2008年12月号の「クオリア獸姦」は何気に茂木健一郎ネタの初出か?R・A・ラファティ『町かどの穴 ラファティ・ベスト・コレクション1』(ハヤカワ文庫SF、2021年)
ラファティは名前は聞いていたのでちょこちょこつまみ食いしていたんだけどいまいち良さがわからない。傑作選がせっかく発売されたのでこれを機に読んでみたけど、あまり印象は変わらないかなあ。「クロコダイルとアリゲーターよ、クレム」「その町の名は?」「《偉大な日》明ける」あたりは多少楽しめた。木下古栗「黒い手帳 久生十蘭」(『WB』Vol.22、2011年)
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ぼくはそこまで久生十蘭が好きじゃないのだが、「作り物っぽいところに逆にリアリティがある」という古栗の解説はわりとしっくりきた(だからこそぼくはあまり好きではないのだけれど)。