今年の10冊(2022)

2022年に読んだ、印象に残った本およびその印象のまとめ(小説とノンフィクションをそれぞれ10冊ずつ)。

小説編

去年のベストは加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる(AGE22・AGE32)』(新潮文庫、2022年)。青春小説に始まり近未来SFやサスペンス、そしてどんでん返しをジェットコースターのように駆け巡る怪作で、蛮勇という言葉がぴったりの小説だった。

SFでは、円城塔ゴジラ S.P』(集英社、2022年)ゴジラを題材にとって強烈なハードSFを繰り広げた一冊。三島由紀夫『美しい星』(新潮文庫、2003年)は三島の通俗的イメージからはかなりかけ離れたドタバタバカSF。パク・ミンギュ『カステラ』(クレイン、2014年)は現代韓国の厳しい世相をチャーミングに描いた魅力的な作品だった。

ミステリーでは、麻耶雄嵩『さよなら神様』(文春文庫、2017年)は1つの特殊設定をさまざまな角度から追求した、非常に緻密な作品。米澤穂信『黒牢城』(KADOKAWA、2021年)は戦国時代を題材にした、ミステリーの意義を問う骨太な一冊。

その他には、小川哲『地図と拳』(集英社、2022年)満州での都市計画をロングスパンで描いた一大クロニクル。稲生平太郎アクアリウムの夜』(角川スニーカー文庫、2002年)は変態研究者の描いた異質なジュブナイルホラー。今村夏子『こちらあみ子』(ちくま文庫、2014年)は今村のデビュー作で、最初っから今村がイヤ純文学を志向していたのだとよくわかる。舞城王太郎『深夜百太郎(入口・出口)』(ナナロク社、2015年)は舞城らしさに満ち溢れたホラー短編集で、舞城入門にもぴったり。


ノンフィクション編

去年のベストは戸田山和久『恐怖の哲学』(NHK出版新書、2016年)。ホラーというジャンルを題材にとり、感情や意識の哲学を駆使してホラーの本質を合理的に解明する恐ろしい一冊。自然主義哲学の応用的な成果としてはこれほど素晴らしいものは他にないだろう。

その他だと人文科学では、ナカムラ・クニオ『本の世界をめぐる冒険』(NHK出版、2020年)は本というメディアの歴史をたどりながら、読み方の多様さを称揚する温かい一冊。橋迫瑞穂『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』(集英社新書、2021年)フェミニズムが子供を持つ女性をぞんざいに扱ってきた分、その拠り所がスピリチュアリティになってしまったことを描いた痛烈な指摘となっている。速水健朗『フード左翼とフード右翼』(朝日新書、2013年)は食事の価値観を政治や思想にまで敷衍した一冊で、「フード左翼」「フード右翼」という非常に直観的なフレーズが素晴らしかった。

社会科学では、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫、2021年)は子育てを通して政治の何たるかを見るエッセイ集。山形浩生『経済のトリセツ』(亜紀書房、2021年)は山形の経済絡みのエッセイの集大成。

自然科学では、リチャード・ドーキンス『神のいない世界の歩き方』(ハヤカワ文庫NF、2022年)ドーキンスが新たに比較的緩めの無神論を唱えた一冊。タッカー・マックス、ジェフリー・ミラー『モテるために必要なことはすべてダーウィンが教えてくれた』(SBクリエイティブ、2022年)は、進化心理学に基づいて正しい恋愛の仕方を描いた本だった。

その他では、五藤隆介『チューブ生姜適量ではなくて1cmがいい人の理系の料理』(秀和システム、2015年)は料理の曖昧さを明確に言語化した本。藤原麻里菜『無駄なマシーンを発明しよう!』(技術評論社、2021年)は、電子工作を優しく楽しく学べる素晴らしい一冊だった。